昨日、ふと庭を見ると、白と黄茶色の毛が混じった猫がバルコニーを横切っていくのが眼に留まる。隣地の畑から道路方面へと歩いていたのだが、「どこまで行くのだろうか?」と気になって見ていると、バルコニーの端から飛び降りてその下に潜っていったように見えた。
「えっ、まさか!?」
と思いながら廻りを見渡しても、道路方面に行った形跡もない。静かにバルコニーに出て下を覗いてみると、なにやらそれらしき気配。しばらく(数秒ほど)その上を歩いてみると、いきなりバルコニー下から猫が飛び出して、道路方面に逃げていった。といっても、5mほど先の我が家の玄関先で、停めていた車の後ろに留まってじっとこちらを見ている。私も動じずにじっと猫を見つめた。十数秒後に、猫は道路を渡って燐家の敷地に進み、またこちらを見つめた。結局、30秒ほど見つめていただろうか。私が動じずに睨み続けていたので、猫はあきらめて立ち去って行った。
バルコニーを横切っていた時には、口に何かをくわえていたので、もしかしたら子猫がいて餌を渡していたのかと勘繰って、バルコニー下を覗いたのだけれど、杞憂だった。バルコニー全体は、枯れ葉が入り込まないように周りを金網で囲っているので、動物が入るとは思っていなかったのだが、道路側はべニア板の扉で開閉できるようになっていて、庭作業の道具を保管していた。その扉は締まっていたのだけれど、鍵をかけているわけではないので、猫にとっては簡単に出入りできたようだ。道具類の奥には、バルコニーの隙間から落ちた枯れ葉がまとまっていたし、ちょうど屋根のひさしの下なので雨が入ることもなく、野良猫としては安住の庵だったに違いない。
それにしても、那須の家を購入してから約9年。そんなところをねぐらにする輩がいるなどと想像したことは一度もなかったので、驚くとともに、あらためてバルコニー下を覗いて異変がないかどうかを確認した。妻にも確認したところ、こちらに来るたびに道具を出し入れしているので、「住み着いていた」と感じたことはこれまでにはなかったとのこと。おそらく今回も、一時的に「入り込んだ」だけなのかもしれないと思うことにした。
それにしても、普段というか一年の大半は留守にしているので、勝手に出入りされて居付かれたりしたら大変だ。適当な重しが見つからなかったので、とりあえず空のペットボトルに水を入れて、扉の前に置いた。東京に戻る前にちゃんとした重しを置いて、ドアを勝手に開けられないようにしないといけない。
でも、あの猫は元々はどのような出自だったのだろうか。見た目は普通の家猫のようにも見えたし、人家の庭を平気で横切るのだからヤマネコとも思えない。とはいえ、人の姿におびえて逃げるのだから、人との付き合いはほとんどないのだろう。この別荘地は「自然が豊か」ということを謳い文句にしているし、完全な自然ではないとはいえ畑や林に囲まれて、那須の山々の自然も臨める。しかし、そこに建っている家々や道路などは完全な人工物であり、雨風をよけられるねぐらとしての機能を享受できるのは持ち主である人間だけ。自分の思い通りの木や草花は愛でるけれども、雑草は抜かれるし周囲から勝手に侵入してくる笹は除草剤で駆除される。
決して自然ではない「自然の中の家」を、私たちは大切にしているということなのだろう。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男