WWNウエルネス通信 (2025年1月5日):「他者の健康」の話

「健康」には、3種類の見方(観点)がある。

一つは「自分の健康」、二つ目は「自分にとっての他者の健康」、三つ目は「他者にとっての当人の健康」である。

一つ目の「自分の健康」については、だれしもが自覚していることと思う。

「健康問題」というとき、多くの人は自分自身の健康状態についての話だと思うだろうし、健康診断を受けるのは自分の身体の状態(自身の健康状態)を診断してもらっているのだと疑う人はいないだろう。

しかしながら、健康診断の結果は自分自身だけが興味を持つわけではない。今では当たり前になっている特定健康診断の結果は、職場や自治体などの(保険組合の)保健管理部門に報告されて、いわゆるメタボの該当者に対して保健指導が行われることになっている。つまり「世間」は、その健診結果に興味を持っていて、健康ではないと判断されるものが少なくなるように「指導」を行う体制が整っているのだ。そして、その当人の検査結果(健康状態)が良好であるか否かについては、家族や知人なども興味をいだくようになる。

これが「自分にとっての他者の健康」である。

私は、スポーツ科学部の学生向けに健康スポーツに関する授業(講義)を担当していて、「自身の健康問題」について語ってもらった件については以前紹介したことがある。

その講義に引き続いて、「あなた以外の他者がかかえる健康問題」についても報告してもらっている。その主な回答としては、以下が挙げられる。

  • 自身の祖父母の虚弱や認知症
  • 自身の親・祖父母の生活習慣病(肥満・高血圧など)
  • 自身の親・祖父母の生活習慣(飲酒・喫煙)
  • 同世代の友人の疾患(メンタルヘルスを含む)

祖父母が認知症や心疾患などの病名を付されている場合には、その「(心配から生じる)困りごと」を生き生きと語ってくれる。一方で、「病気」とまでは診断されていないものの、飲酒や喫煙などの生活習慣が気になって報告してくれる学生もいる。

例えば、次のような報告があった。

父は私が生まれる前から喫煙をしており一度は医療を介して喫煙を行ったが、最近になって再度喫煙を始めたという状況である。なぜ喫煙を再開したかと考えた際、喫煙者の友人の「ストレス発散する為」という発言を思い出し、仕事の激務によるストレスとして仮説を立てた。その場合私たち家族の心理的サポートが足りなかった可能性があり、その部分が悔やまれる。実際喫煙者ががんになる確率は、非喫煙者の1.6倍(男性)と1.5倍(女性)であり、健康問題であるのは確かである。日常生活でも、父が痰の絡んだ咳をすると心配になり、この状況を改善したいと強く感じている。

つまり、この学生は、「喫煙習慣」を悪いものと考え、それを「改善したい」と思っているのだが、それを止められないことに対して「サポートが足りなかった」と反省しているようだ。

もちろん、上記は正論なのだけれど、私としては、「たばこを吸いたいお父さん」が「たばこを吸えて幸せだ」と思えるような環境を整えようとしても良いのではないかと感じる。もちろん、私はたばこの煙が嫌いなので、私の周りで吸って欲しくはないのだけれど、それは「自分の健康問題」に過ぎないのだ。

多くの場合、喫煙や飲酒と言った行動は、その当人にとっては「幸せ」に結びつく(一抹の罪悪感を伴うこともある)ものなのだけれど、周囲の家族等からは、「改善すべき」不健康状態だと認識されることが多いようである。

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/