WWNウエルネス通信 (2024年5月12日):なぜ私はAED設置に反対するのか?

先日、私が住むマンションの管理組合から「AED設置に関するアンケート」が配布された。

・我が国では突然心停止の発生は70%近くが自宅・住居であり

・集合住宅等の人口が密集した環境ではAED設置の効果が期待される

とのことで、30万円前後の初期費用に加えて毎年数万円の保守費用を支出することの妥当性について意見集約を行うことが目的だった。

じつは、私は管理組合の理事を務めているので、AED設置を検討してきた当初からその経緯は承知していたし、なんとなく「設置しない方が良いのではないか」との思いはあったのだけれど、考え方の整理ができていなかったので特に意見を述べることなく「アンケートを取って皆さんの希望を伺いましょう」という流れにまかせて、そのまま何も語らずに過ごしていたのだった。

で、いよいよアンケートが配布されてその締め切りが迫ったことから、「どうして私はAEDを設置しない方が良いと思ったのだろうか」という問いに答えを出さなければならなくなったということである。

まず最初に申し述べなければならない条件として、私のマンションの近く(徒歩1分)にある幼稚園と児童館には各々1台ずつAEDが設置されていて、平日昼間であれば、そのAEDを利用可能だという事。つまり、私のマンションロビーに設置したAEDが使われるのは「夜間に居室内で発生した心停止に対して救命措置を行おうとするとき」に限られる。でも、独居の方は、(そもそもAEDが使えるのは意識不明の場合だけなので)この恩恵には浴さない。また、寝ている場合に発作が起こったとしても、同室で寝ていた家族が気づいた場合にしか活用できない。つまり、居間や食卓で家族と団らんしていた時に発生した突然の心停止の場合だけ、このAEDが役立つという事になる。

それでも、「わずかでも命を救える可能性があるのであれば(無いよりも)有った方が良いのではないか」と考える方が自然であり、経費との釣り合いで逡巡するのはばかげている(反対する理由にはならない)。

次に考えたのは、AEDを設置した場合に、私たちにはどのようなコストが生じるのかということ。もちろん、金銭負担は受け入れるべきことなので、ここでは省略するけれど、いろいろと調べたところ、次のような負担(課題)が生じることが整理できた。

  • 日常点検は保守管理:マンションの防災管理者を(居住者から)選任するにも苦労している私たちなのに、AEDの保守点検をだれが担うのか。
  • 心停止事故が発生したとして、家族以外の隣人がAED措置を行ったとして、処置に手間取ったり救命できなかった場合、いわんや使い方を誤って事故を起こした場合など、(法的責任は発生しないとしても)心の傷や禍根が残ることはないのか。(AEDが適応となるのは「意識・脈・呼吸がない状態」に限られる)
  • 「あったけど使えなかった」「使ったけれど救命できなかった」という事態になったときに、居合わせた居住者相互に禍根が残らないのか。
  • 上記を想定すると、普段からAED救命措置の訓練を行うべきだと思われるが、地震や火事対策の防災訓練もちゃんとできていない私たちに、AEDを使えるようになるための訓練が可能なのだろうか。

と、このように私の思考を整理した上で、これらを書面にしたためて「設置に反対」に丸を付してアンケートに回答したのだった。

ただ、私の反対によって「AEDを導入しない」という結論に至ったとして、もしその後に「突然心停止」の事故が発生して「AEDがあったら良かったのに」などと噂されても、私が心を痛めることになるかもしれないので、次のようにも付け加えた。

「AEDによって救命できる条件が整った事故が起こる可能性は限りなく低いので、保険と同様に、それが存在することで居住者の安心感が高まるという理由で設置するのであれば、設置したいという意見には抵抗しません。」

共同マンションでつつがなく暮らすためには、いろいろな気遣いが必要なのだ。

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/

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