先週から大学の授業が始まった。
水曜日には大学院の「健康スポーツマネジメント特論」の初回講義を行った。
冒頭、「今世界で重要な健康問題は何か?」と受講学生に問いかけると、
「生活習慣病」
「認知症」
等々と、ありきたりの健康問題が挙げられた。
私は、
「今、世界中が注目している健康問題は、コロナウイルスとウクライナ侵攻です」
と、私の思いを開陳し、
「いわゆる皆さんが思い描く健康問題は、平和で安全な先進国だけの問題で、紛争や飢餓・貧困に悩まされている地域では『健康』ということを想像することさえ難しいのです。」
と、付け加えた。
もちろん、そのような地域では「健康増進のためのスポーツ」や「フィットネス」に汗を流すことも考えにくい。
思えば、私たち日本の社会だって同じだ。戦後すぐの復興期には、日々を生きることが精一杯だった方も多かったし、政府が取り組んだ主要な健康政策は清潔な環境づくりと食料・栄養の確保だった。
現在の「国民健康・栄養調査」は、当初(昭和20年)は「国民栄養調査」として「海外からの食糧援助を受けるための基礎資料を得る目的」で始まったものであり、栄養素の欠乏や発育不全を考慮した質問のほかに、食品の入手方法、購入価格や都市部と農村部の差なども調査されたのだった。
さらに言えば、1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災などの被災直後の状況では、「認知症予防のための運動」という意識よりも「トイレ不足」や「エコノミー症候群」の方が重要な健康課題となった。2011年春から夏にかけては、西日本などの被災していない地域においても、ランニング大会やウォーキングイベントが軒並み中止になったし、ゴルフ場の利用者も激減した。いわんや、被災地域において、スポーツやフィットネスを楽しむ人がどれだけ減ったのかということは、語るに及ばない。
体育館が避難所になったり、学校の校庭に仮設住宅が建てられるなどの状況下での健康問題は、平時の健康問題とは異なるのが当たり前なのだ。
ひるがえって、この2年間の私たちの暮らしを見ても、同様のことが言える。
「ステイホーム」というのはいわゆる「引きこもり」のこと。
今世紀に入ってからの健康増進や介護予防の施策では、独居高齢の方が自宅から外に出る機会を持つようになることが大きな健康課題だったのに、一昨年春からは「自宅での引きこもり」が奨励されるようになった。
外出して散歩やウォーキングを楽しむ生活をいつのまにか忘れてしまった方も少なくないことだろう。
ウイルスや紛争で困った方がいるということに心を悩ませて、自身の生活を自粛したりする方が一人もいないように、切に願う次第である。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男