WWNウエルネス通信 (2月9日配信)“リスクはいつも突然に~高齢者のための第二の大学教育の必要性~”

前回は、大学受験を例にして、それが「与えられた課題に真面目に取り組んで成果をあげる能力」を評価しているのではないかとの私見を述べた。

思えば、大学を卒業して就職したとしても、待ち受けているのは各々の“会社(社会)”での作業課題であり、それを真面目に取り組んで成果をあげることが、各々の“会社(社会)”から期待されている。そして、ときとして、その“社会が求める課題”は、予告なしに突然変わったりすることがある。トランプ大統領の誕生だってBrexitだって、はたまた新型肺炎だって、私たちが直面する課題は、いつも突然にやってくるのだ。ウイルスに感染したり、病気を患ったり、はたまた突然の事故死や病死のような災厄であったとしても、私たちはあらかじめ準備できない状況に直面するリスクを覚悟して生きることしかできないのである。

だからこそ、大学では、そのような社会の変化・変革に際しても自在に対応できる人材を育成しようとしているのだ。しかし、中には、自分たちが想定・準備していた形と違う課題に直面すると不満を漏らすものもいる。たぶん、高校生までは、「与えられる課題」は常に安定的であり、予測・準備が可能なものばかりだったのだろう。一般的に、大学での学習環境が高校までと大きく違うのは、「時間の使い方を自分で選択・決定すること」なのであり、その選択・決定において「自己責任」という考え方を徹底するところにあるのではないかと思う。だって、卒業した後に待ち受けている社会は、いつでも突然に変化するし、「これまでの常識」が通用しなくなることも茶飯事だからだ。

このように考えてみると、小学校、中学校、高等学校、大学と、「与えられる課題」の安定性が少しずつ少なくなっていくのではあるまいか。思えば、小学生の頃は、学んだ知識が根本から消滅してしまうことなど考えてもいなかった。例えば、私が小学生の頃は、夕張の石炭が北海道の大きな産業で、それを室蘭まで運ぶ国鉄(室蘭本線)は、北海道の中核幹線だったし、ソビエト連邦がなくなってしまうことなど想像することすらできなかった。それが、ベルリンの壁の崩壊やソビエト連邦の解体はもとより、国鉄や電電公社の解体・民営化など、教科書(学校)では絶対に得られない情報が現実知識となっていく。

だから大学では「今」を教えつつも、「変革に備えた態度・資質」を涵養しようとするのだ。それが、社会に出てからは、それを「教えられる」こともなく、ただただ現実社会の変革と、その折々の課題に直面することで、自発的に適応する能力が養われていくし、それが即時に評価されていく。Brexitも米中貿易摩擦も新型肺炎も、いきなりやってくる社会環境の変化に、私たちはいやおうなく対峙していかなければならない。それが大人に課せられた使命であり、つまり、私たちは、成長するにつれて、変革する社会の中で自らの生き方を常に適応させていかなければならないということなのだ。

ならば、「会社」を終わった高齢者はどうなのか?

もう、社会の変革に対応しなくても良い永遠の安定を得られるとでもいうのだろうか?

否。

今の高齢者には、年を重ねるほどに大きくなっていく避けられないリスクがある。それは、“身体衰弱のリスク”、あるいは“死に近づくリスク”であり、それに伴って社会環境変化に対して“身体が適応しにくくなるリスク”である。例えば、ウイルスに感染したとしたら、発症するリスクは若い時よりも高いだろうし、地震や洪水の際にも逃げ遅れたり被災するリスクが高くなる。

このような加齢リスクは避けられないのものなのだろうか?

否。

それらのリスクの高まりは、あくまでも《身体的》なもの。そもそも、若者に大学教育が果たす役割は《身体的》なのではなくて《知識的・思考的》なものである。そしてまた、大学を卒業した若者や中年社会人が涵養してきた《適応能力》もまた《身体的》なものではなく《精神的・思考的》なものだと言える。ならば、高齢者だけがなぜ《身体的リスク》の高まりに対して無思考的に諦念することが許されるのだろうか。

高齢者が直面する《社会環境変化》のリスクは、その《身体的衰弱性》の増大と共にますます俊敏かつ精神思考的に対応しなければならなくなる。そしてそれは、大学入試で求められる「課題遂行能力」をはるかに上回るレベルの《思考力・判断力》なのだ。

私たちはあらかじめ準備できない状況に直面するリスクを覚悟して生きることしかできないのであって、“身体衰弱のリスク”を抱えながら「会社」を終わった後の「社会」を生きるための「自己責任」を涵養するためには、もしかしたら「第二の大学」とそのための「受験勉強」が必要になるかもしれないのである。

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/

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