WWNウエルネス通信 (1月26日配信)“リスク化される身体と疾病容疑の捏造”

一昨日、久しぶりに健康診断を受けた。“人間ドック”とも呼ばれているのだが、今回は胃部検査(バリウム・胃カメラ)ならびに検便・直腸診を除外したし、昼過ぎに出かけて実質1時間程度で終わってしまうので、“ドック”という仰々しい呼称には白々しい気を覚える。

 それはさておき、腹部エコーの技師が、

「前回は6年前ですが他でエコーを受けられましたか?」

と聞いてきた。よくよく聞くと前回は2014年1月27日だったようで、ちょうど6年経ったということだ。私がこのような“ドック”を初めて受けたのは35歳の時。「節目健診」と呼ばれ、「次は5年後」との思いから勇んで請けたような記憶が残る。それがいつの間にか「毎年」の受診が推奨されるようになり、今では、受診しない私に対して、職場の健康管理の当局からは「受診するように」との督促までもあるほどだ。

身体症状の自覚がないのに検査結果(数値)を基に将来の罹患リスクが指摘されて治療や投薬が進められる。このような、「将来リスク」の推計に基づく処置が正当化される考え方は「リスクの医学」と呼ばれる。そして、その考え方に基づいて “医学が身体を統治管理する状況”を、美馬達哉は「リスク化される身体」と表した。

私は、自身の身体を統治するのは自分の意志だと思っているし、不安をあおって医療侵襲を受け入れた挙句に本当の(自覚的)病苦がもたらされるような陥穽(つまり“痛くもない腹を探られる”という比喩の現実化)には囚われたくないので、自分のからだの状況はいつでも自分で管理するように心がけている。しかしながら、“人間ドック”を世に勧めている医療関係者には、自分で自身のからだを管理するという私のような存在が到底信じられないことらしい。つまり、「6年間も健診を受けていないこと」自体が、彼らにとっては信じられない暴挙なのだろう。

 ところで、今回の検査では6年前と比べて特筆すべき変化があった。一つは、腹囲が91cmとなってメタボの基準(85cm)を上回ったこと。もう一つは「眼圧が高い」と言われたこと。前者は、この5年間で体重が5kgほど増えているし、若いころのスーツのズボンがきつく感じてきたので、当たり前のこと(予想通り)と受け止めたが、後者(眼圧)は初めての体験。そもそも、眼圧の正常値などについては全く考えたこともなかった。まあ、それは「緑内障のリスク」ということらしいのだが、「高いですからもう一度測りましょう」と再度検査して「低く(正常範囲に)なりましたからこちらを記入しますね」と言われ、左目については「再検査でも高いですのでこのまま記入します」と技師が言うくらいだから、大したことではないのだろうと高を括る。

 最後に、医師の問診。最初に「どうして6年間も受けなかったのですか?」と尋ねられたので、6年前の胃カメラ検査で全面に白い斑点上の画像を見せられて、「胃炎かもしれないし前夜の飲酒が原因かもしれない」などと中途半端な説明を受けて、それなら「飲まずに来い」ときちんと説明してから来診させればよいのにと憤ったことが健診を止めた原因だと教えてあげた。

 「この(検査した)医師のことは知らないのですが不快な念を与えてすみません」

と言われて、少しは接客精神を理解しているのかと安心したのも束の間、

 「萎縮性胃炎と逆流性食道炎とありますから検査を受けた方が良いですよ」

と、胃カメラ検査を受けるように勧めてきたのには驚いた。6年前に「よくわからないけれど」といい加減な説明に終始した医者は、その結果として上記の“診断”を記録したというわけだ。ちなみに、「逆流性食道炎」については、その時「以前の検査で何か指摘されたことはないか」と問われたので、さらに10年ほど前(今から15年ほど前)に胸胃部の不快感を訴えて初めて受けた胃カメラ検査での診断結果(すぐに治ってその後再発していない)を伝えただけのこと。自分で見つけたわけでもない受診者の症状をそのまま「診断結果」として記録するとは、ずいぶんとずさんな医療だとしみじみと感じた。

しかもそれらが、“記録”として当該検査機関に保管されて、6年後の今回の健診で参考資料として医師に提示される。その医師は、今回の健診結果に触れることなく過去の記録に基づいて受診者を指導しようとする。何のために今回わざわざ検査したというのだ。何をか言わんやである。

 ところで、くだんの(今回の)問診医師は、6年前の胃カメラ検査の記録だけを私に告げたものの、肝心の「腹囲」や「眼圧」という“今回の検査結果”については全く触れなかった。5kgも太った事実と眼圧の増大という現在のリスクに言及しないで6年前の記録を回顧するだけの”指導“に、いったい何の意味があるというのか。

もはや「リスク医学」も崩壊直前なのではないかと思う。

コメントを残す