健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいいます。2022(令和4)年の健康寿命は、男性72.6歳、女性75.5歳となっています。平均寿命と健康寿命の差、すなわち「日常生活に制限のある期間」は、男性8.5年、女性11.6年(令和4年度)と報告されていますので、自分の残り人生のうちの10年程度は「不健康な期間」となるのではないかと案じる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは全くの杞憂です。
厚生労働省の説明では、
「平均寿命と健康寿命の差は日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味します」
と語られているのですが、
「平均寿命と健康寿命の差は、介護などが必要となる期間」
と語られることもあって、一般的には、後者の認識が広まっているような気がします。
どちらも同じではないか(何が違うのだ?)という疑問を持たれる方も少なくないかもしれませんが、この二つの説明は全く違います。
というのも、そもそもの健康寿命の算定は、厚生労働省が実施している「国⺠⽣活基礎調査」の中の、
「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」
という設問に対する回答から求められているからです。
その質問に対して、「ない」と回答する人を「健康」とし、「ある」と回答する人を「不健康」として、「健康人」としての「存在期間=寿命」を算定するのです。大雑把にいうと、「不健康」な人も含めて算定するのが「平均寿命」で、「不健康」な人を除いて「健康人」だけで算定するのが「健康寿命」だと思っていただければよいでしょう。
ここでの「不健康」の判定基準が、「日常生活に影響がある健康問題」ということであって、「足が腫れて歩くのが不自由」という(先月の私の)状態も該当しますし、風邪を引いて仕事に支障をきたすという方も含まれます。もしもコロナの時期に集計したとしたら、とんでもなく健康寿命が低くなったことでしょう。
それはさておき、この「不健康」な人の割合は年を重ねるほどに増えていって、50歳代で1割、70歳代で2割の方が該当します。そして、85歳以上の高齢者の半分以上は、「不健康」に区分されています。しかしながら一方で、なんと、10~30歳の日本国民の5%の方が、上記の質問に対して「ある」と回答しているのです。つまり、日本の若者の5%は、「健康寿命が潰えている」と判定されていることになります。
冒頭で、「残り人生のうちの10年程度は不健康な期間となるのでは」と案じるのが杞憂だと申し述べましたが、10~30歳の若者の中には、現在も「不健康」で、この先何十年にわたって「不健康な期間」を過ごす方もいて、そのような方の「不健康な期間」も含めての平均値が「10年程度」なのですから、70歳を超えた高齢者にとっては、今現在が「日常生活に支障がない」のであれば、これから先の将来に起こる「不健康な期間」を悲観したり不安を感じたりする必要はないのです。
「自分の人生の最後の10年は不健康となるのではないか」と案じるのは、「自分はもう80歳なので男性の平均寿命まであと1年しかない」と案じるようなものです(2024年の80歳の平均余命は約9年)。
ちなみに、「介護などが必要となる期間」については、男性が1.6年、女性が3.4年と推計されていますので、男性8.5年、女性11.6年とされる「日常生活に制限のある期間」と「自立できない期間」とを同一視することもナンセンスです。
それよりも、自分に与えられた健康寿命をどう活かすのかということに執心した方が、充実した人生を過ごすことにつながることでしょう。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男