4ヶ月ほど前(2月27日)の夜。食事中に奥歯が抜けた。
右上の一番奥の歯で、3年前(2021年)の3月に痛みを覚えて歯科医に出向いたことがあった。
その時は、噛み合わせの下側の奥歯を少し削って痛みが消失したのだけれど、半年ほどたって痛みが再発。翌(2022)年春には、「元には戻りませんので抜けるまで大切にして様子を観ましょう」と言われ、さらに一年後(2023年)の春には、右奥歯に食事が当たるたびに痛みを感じて、つまり、左側だけで咀嚼している状態となった。4月には「抜いちゃいますか?」と抜歯を勧められたりもして、わざわざ抜歯の予約をしたこともあった。その時は、私としてはその覚悟で座ったのに「抜きますか?」などと確認されたものだから、「抜かなくても良いのですか?」などと聞き返した挙句、抜かずに放置することにしたのだった。
それから1年間は、朝起きた時には固定されているように感じる奥歯が、食事のたびにゆらゆら揺れて、「噛むと痛い」という状態が繰り返された。もしかしたら、起きているあいだは歯が歯茎からぶら下がる(下にある)ので、重力で離れていくのかもしれないなどと、考えたりもした。
それはさておき、その日の会食では鮭を1匹解体して、皆で料理して食べたのだけれど、ちょうど鮭の切り身(焼)をほおばっていた時に、その時が来た。骨が付いていたので、口の中で骨と身を分けていると、突然思いもよらない触感の骨が現れた。皆の前で口から出すわけにもいかないので、静かに口の中でより分けて、ほぼ身が除かれた状態で恐る恐るティッシュに吐き出すと、まがいもなくそこにはその歯があった。
その「歯」だけをつまんで洗面所で軽く洗った後に、別のティッシュにくるむ。
おもむろに、「歯が抜けました」と宣言して、抜歯の儀式が終了した。
抜けるまでの直前の1~2か月は、奥歯に何かが触れると痛みを感じるようになっていて、かなり不快な日々が続いたのだけれど、抜けてみると嘘のように痛みが消失。ちょうど、翌週金曜日(3月8日)に歯医者の予約が入っていたので、そのまま放置。
歯科医の診察台で「抜けました」と申告したところ、「良かったですね」と言われた。たしかに、その1年前に抜いていたとしたら、痛みはそこで消失したかもしれないけれど、麻酔して力づくで抜くことになるのだから、自然に抜けるに越したことはない。
でも、「喪失感」というか、「そこに何もないこと」に慣れるまでには少し時間がかかった。痛みがないとはいえ、右側で咀嚼すると、最奥の(奥歯があった)空間に平気で咀嚼物が交じり合う。3か月たった今は、ようやくそれが普通になったような気がするけど、抜けた後の歯肉の隙間が補填されるまでは、そこに咀嚼物が入り込まないように注意しながら噛んだりしていた。
私には親知らずがないので、それまで生えていた歯は28本。そのうちの1本が抜けたわけなので、まだ27本ある。
巷には、“80歳になっても20本以上自分の歯(8020)を保とう”という運動があるそうで、「少なくとも20本以上自分の歯があれば、ほとんどの食物を噛みくだくことができ、おいしく食べられるから」だとのこと。ただ、2022年の調査(厚生労働省・歯科疾患実態調査)によると、8020を実現している80歳以上の人は51.6%。8020運動が始まった1989年当時は、8020達成者は1割程度だったので、この30年間で50%を超えるまでに増えたということ。ただ、前回(2016年)調査からみると頭打ちのようで、「すべての人が8020」という理想にはなかなか届かないのかもしれない。
ところで、8020財団のホームページに「8020予想」というコーナーがあったので試してみると、
「あなたの80歳予測歯数は24本です」
と表示された。
どうやら私は、8020の候補者として胸を張ることができるようで、一安心。
でも、よくよく考えたら、永久歯が生え揃ったのが10歳頃だとすると、57年経って初めて歯が抜けたというのに、これから80歳までの13年間で「あと3本」も抜けるのだとしたら油断ならない。
これからも歯の動向を注視したい。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男