昨年11月末から使ってきたスマートウォーッチ(以下《時計》)を、10日ほど前に外した。
つけ始めたころの顛末は、以前記したが、「健康管理」の最近のツールを試してみなければという職業上の動機が大半であった。
じつのところ、「歩数」も「血圧」も「体温」も、「こんな程度なのだ」とすぐに納得したし、まだまだ技術開発の余地があって、ますます進化するのだろうと感じさせてくれた。
なかでも私が注目していたのは「睡眠分析」の機能。
私の研究仲間に心拍変動による睡眠分析を手掛けている(指輪型計測器の実証に取り組んだりした)者もいて、飲み会の場で話を合わせるためにも大いに役立ったのだった。
最初の頃は「就寝時刻」と「起床時刻」を自動的に記録してくれることに大いに感動していたし、(真に受けてはいなかったとはいえ)「熟睡/浅睡眠/レム睡眠/覚醒」に区分してくれることも楽しかった。でも、今年の3月ごろから、「就寝時刻」が不正確になってきたことが気にかかっていた。22時過ぎに寝たはずなのに翌朝表示される就寝時刻は1時ごろ(ちょうどトイレに起きたころ)だったりすることが度重なって、5月に入ると、24時以前の就寝が無視されるようになった(深夜1時ごろの就寝はきちんと計測していた)。それでも、毎朝スマホのアプリを起動して、《時計》のデータをスマホに転送し、それまでのデータを照合していたりしていたのだけれど、さすがに、「実際の睡眠時間は2~3時間多い」ということを意識したとしても、その累積データの価値がどんどんと薄れていったのだった。
そんな中、夜中に目覚めたときにボタンを押して「まだ寝たことになっていない」などと確認したりしている自分がばかばかしくなったというか、《時計》に自分の眠りが支配されているような気になって、(あまりにも短い睡眠時間が表示された)ある朝、《時計》を外して家を出たのだった。
もちろん、私が購入したのは、スマートウォーッチと呼ばれるものの中でも最安機種だったので、機能が劣るのは当たり前のことだし、日中の歩数計側の結果には不服はなかった。1時間ごとに区分されて表示される歩数記録は、「歩いたとき」と「歩いていないとき」をきちんと表示してくれていた。でも、その「歩いたとき」の記憶は私自身にもあって、私の感覚(思い違い)を更新してくれるわけではなかったので、とくだんそのデータが役に立つことも活用されることもなかった。だから、「これから歩き始める」というタイミングで《時計》を外しても、何にも未練を残さなかったのだ。
それはさておき、それを外してから10日ほど経った昨日の夜。
何もすることがなくなったので、20時前に床についた。その時、ふと思いついて、寝る前に《時計》を装着してみたのだった。きっと、この《時計》を装着している人間は22時以前に就寝するような生活習慣を持たないものだと勝手に決めつけられているだけだろうし、久しぶりに(こんな早い時間に)装着したら、フレッシュな状態で就寝計測してくれるかもしれないと思ったのだった。
翌朝確認すると、就寝時刻は0時12分。ちょうど、私がトイレに起きた直後の時刻だった。就寝直後に意識を失って熟睡していたにもかかわらず、その間の4時間は、またもや無視されてしまった。
それでも、久しぶりにスマホのアプリを立ち上げてデータを転送しようとしたところ、「ログイン」画面から始まって「初期データ設定」まで行う羽目になった。なんとか立ち上げてデータ転送することはできたものの、以前のデータは残っていなかった。たった10日ほどご無沙汰していただけというのに、こうも簡単に忘れられ(消去され)てしまうとは、なんと薄情な機械なのかと(機械なので情がないのは当たり前とはいえ)あきれた。
さっそく、スマホのアプリをアンインストールして、私と《時計》との縁が終了したのだった。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男