先日、久しぶりに弟に会った。
両親の死後、彼は、両親と一緒に住んでいた自宅を引き払って田舎暮らしをしているため、会う機会がなかったのだけれど、7回忌を名目に兄弟と子・孫全員で会食した折のことで、3回忌以来だから4年ぶりということになる。
げっそり、というほどではないけれど体躯がやせて頬もこけていて、3人の中で最もふくよかだった面影はない。
尋ねてみると、近所の農家から食べきれないほどの野菜を差し入れてもらい、野菜中心の食生活になっていることが原因のようだ。
彼は、しょっちゅう体脂肪計に乗っているようで、自身の体重と体脂肪の変化を熟知していた。体脂肪が10%を切ってからは、「太らなきゃ」とは思うこともあったようだが、病的な瘦身ではないので、その体型を楽しんでいる様子さえうかがえる。
それはさておき、そんな彼が面白いことを言った。
「多量の排便をした後で測ると、内臓脂肪が急減する」
とのこと。私は即座に、
「便が電気を通さないことで脂肪と同じにカウントされたのかもね」
と返答した。
体脂肪計は、両足裏(両手掌を添える場合もある)から体内に微量の交流を通電して、その電気抵抗(インピーダンス)を測ることで「体脂肪率」を評価している。通電周波数やアルゴリズムの詳細は多くの場合は企業秘密だけれど、大雑把に言うと、水分量を多く含む筋肉組織は電気を通しやすい一方で、脂肪組織にはほとんど通電しないので、脂肪が多いほどインピーダンスが高くなる。インピーダンスの値だけから厳密な体脂肪率が産出されるわけではないので、ほとんどの簡易な体脂肪計は、性・年齢をあらかじめ入力して、測定した体重値を基準として大雑把な体脂肪率の範囲を定めたうえで、インピーダンスの値を加味して体脂肪率を表示するようになっている。でも、同一人物が繰り返して測定する場合は、インピーダンス値の高低によって体脂肪の「増減」をかなりの精度で評価できると言っても過言ではない。ただ、基本的にはインピーダンス(電気の流れやすさ)で評価するのであるから、入浴後など足裏がしっとりと湿ることで通電しやすくなると、「(入浴前に比べて)体脂肪が減った」などと感じさせる場合もある。
「排便後に体脂肪が減る」という現象も、それと似ていて、(腸内の大便がほとんど通電しなければ)インピーダンス自体に変化がないのにもかかわらず、多量の排便で体重が減った分だけ「体脂肪が減る」と評価されることにつながるのだろう。
ということが、私が「便が電気を通さない…」と答えた本意である。
でもその時同時に、「この原理を使うと排便量を評価できるかもしれない」と思うようになった。
もし、トイレの足元と便座に体脂肪計と同様の通電板をおいて、便座全体の重量とインピーダンスを連続計測したとしたら、その変化から排便量が測れるのではないか。
かつて、インテリジェンストイレなる商品が販売されて、「座るだけでさまざまな健康状態をチェックできる」と謳われたが、そこで評価されているのは体重・体脂肪の他、血圧や尿糖などで、脱臭装置が吸引した便臭から異常を検知する技術なども開発中のようだけれど、「排便量」までは言及されていないはず。
「これは発見かも!」
と喜んでみたのだけれど、よくよく考えてみたら、大小便を区別しないのであれば、トイレの前後で(服を着たまま)体重計に乗るだけで、「減った分が排便量」となるわけで、わざわざ大上段に構えて測るものではない、ということにすぐに気が付いた。
「ぬか喜び」の思いを胸に、その日の会食を楽しんだ。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男