さて、前回、スマートウォッチ(以下《時計》)の「睡眠状況」の分析について記した。中でも、「就寝」と「起床」の判断の面白さの事例として、「起床」のエピソードを披露した。
今回紹介したいのは「就寝」の判断。
じつは、《時計》に内蔵されている加速度と心拍情報の信号処理によって、「熟睡/浅睡眠/REM睡眠/覚醒」の4つの状態を区別できるとは言っても、それは「睡眠中」に限られる。睡眠中の「覚醒」ならば、睡眠時とは違う動き(加速度)が現れることで検知できるのだけれど、「起きている」状態から「眠りについた」状態へと変化したことを、《時計》はどうやって検知できるのだろうか。
この疑問に思いいたったのも、12月下旬を迎える頃だった。
眠りについてから3時間ほどでトイレに目覚めたとき、何気なく《時計》を見たところ、睡眠計測モードが作動していなかったのだ。
「あれっ、測れなかったのかな?」
と怪訝に感じたものの、気にせずに寝て、翌朝観てみたら、きちんと就寝時刻が表示されていた。トイレに起きた時刻あたりには白い線が入っていて「一時的覚醒」として記録されていたことも分かった。
「結構正確だな」
と感心すると同時に、そういえば手首に巻かれただけの《時計》が、どうやって就寝時刻を決めるのだろうかと、その判断の困難さに思いを寄せた。
それからは、夜中に起きるたびに《時計》を確認するのだが、朝方(たぶん就寝後4時間以上)経たないと就寝時刻が定まらない(睡眠表示がなされない)ということが分かった。ということは、この小さな《時計》の中で、数時間にわたる加速度と心拍のデータがずっと保存されて睡眠分析を繰り返しているのだと、あらためて感心した次第であった。
傑作だったのは、年末年始。
すでに述べたように、昨年末から私は風邪をひいていた。
30日夜に感じた喉の違和感は、翌大晦日には咳の頻発と悪寒へと発展した。
頭痛も加わった元日夜は、20時過ぎに早々に寝たのだけれど、なかなか寝付けなかった。といっても、水を飲んだりトイレに行くたびに「目覚めた」意識はあるので、気持ちとしては「睡眠中」だった。でも、心拍は乱暴に動いていたので、もしかしたら《時計》は判断できないのではないかとも期待した。あにはからんや、その日の就寝時刻は22:27。寝たはずの時間のうち、2時間程度はカウントされていなかったようだ。
翌2日夜も同様。寝たのは22時以前なのに、記録された就寝時刻は1:37。なんと、3時間以上も、私の睡眠が記録されていなかった。翌朝は、(箱根駅伝のためだけではなく)6時に起きたので、記録された睡眠時間は、「熟睡0:38」、「浅睡眠2:52」と、記録を始めて以来の最低の睡眠状況となってしまった。
3日夜も同様。22時には就寝したのに、記録された睡眠の始まりは1:50。ただ、この日は、熟睡4:14/浅睡眠1:25と、睡眠状況はいくらかは改善されたようだった。
それが、4日夜は、22時過ぎの就寝に対して、記録では22:40と、いくらか正常(?)に戻った。とはいえ、5日夜は、23時頃の就寝に対して、記録では0:22となって、眠りについてから「就寝」と記録されるまでの時間が再び開いた。翌朝は、なんとぐっすりと眠り込んでしまって、起きたのが8時半(記録上は8:42)。
「実際に寝たはずの時刻」と「記録された就寝時刻」を比べて記録するなんて、何のために《時計》で睡眠記録をしているのかとあきれる方もいるかもしれないが、ここでじつは気づいたことがある。
《時計》の「就寝時刻」に狂いが出始めたのは、私が風邪をひき始めてから。
そして、「治った」とはなかなか言えないぐずぐずした状態が続いた間、私は本当に眠りについていたのに《時計》はそれを認めなかった。それは《時計》の判断が狂っていたというよりも、《時計》がチェックしているのは、手首の動きと心拍によって検知する自律神経(副交感神経)の働き。頭痛がしたり悪寒や発刊が続いたりと、自律神経の働きが乱れているときに、(本当は眠っていたとしても)「眠り」と判断しないのが、この《時計》のアルゴリズムなのだ。
だから、「眠っているかどうか」を検知していると思うから「狂っている」ということになるのであって、「自律神経の落ち着き」を検知しているのだと思えば、「寝ているけど自律神経が乱れている」ということを「正しく診断している」ということにもなるだろう。
そこで、私は考えた。もしこの《時計》に「入眠/起床」の申告ボタン(既存のボタンの二度押しでも可)があって、その「申告」と「実際の自律神経の落着き程度」とを比較したとしたら、今回の私の風邪の症状(通過具合のなりゆき)をかなり正確に表現してくれたのかもしれない。
私が考えるくらいだから、もうすでにその機能が実装された《時計》もあるかもしれないし、きっと設計くらいは始まっているのだろう。
こうやって、技術が進化していくのだと考えると、なんだか楽しい。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男
[…] […]
いいねいいね