今年の紅白歌合戦にクイーンが特別出演するというニュースが報じられたころ、朝のNHKラジオからクイーンの曲が流れてきた。
アナウンサーが好きだという「I was born to love you」。耳慣れた曲だったので口ずさんだりした。
》I was born to love you …
》I was born to take care of you
しばらくして、口から出てきたのが、スティービーワンダーの「心の愛」。
》I just called to say I love you
》I just called to say how much I care
よくよく反芻してみると、「born」と「call」が違うだけで、「love」に続いて「care (of you)」と語られるところが同じ。もしかしたら、ここ(彼女に愛を語らう場面)での含意として、「love」と「care」は親和的なのではないかと思うに至った。
厳密にいうと、「care」という英語は、「心配」「不安」「気に掛ける」「気配り」といった意味が中核で、動詞として使う場合「I don’t care=心配してない」のように否定形で使うことが多い。だから、スティービーワンダーのように「I care」と肯定形で用いるのは異端なのかもしれない。だけれども「how much I careと伝えたい」と語られると、「大切にしたいんだ」という思いが伝わってくる。
スティービーワンダーの歌詞について、ネット上にあふれる和訳を探してみると、
「どれだけ気にかけているかを伝えるために」
「どれだけ君を想っているか伝えたくて」
「君への想いを伝えたくて」
「どれほど君のことを想っているか伝えたくて」
「思いを 伝えたかったんだ」
「どれだけ大切か伝えたくて」
などなどと、「I love you」を後押し(強調)する含意を感じる。
一方で、クイーンの「take care of」の方は、一般には「世話をする」という熟語として覚えてきたのだけれど、ネット上の和訳を見てみると、
「君を救うために」
「君を大切にするために」
「お前を幸せにするために」
「君を守るために」
「どんなに君を想っているか伝えたくて」
という言葉が並ぶ。
それはさておき、今回の発見は、「care」という英語は「love」と結びつくと「大事に/大切に/幸せに/貴方への想い」というような愛情の強調形の含意があるということだ。
なぜ突然に、このようなことを述べたのかというと、前回吐露した「20世紀は医療技術の時代」という私の想いに通じる。前回は記さなかったが、この後に「21世紀はケアの時代」というメッセージが続く。
厚生労働省の『保健医療2035提言書』によると、2035年までに必要な保健医療のパラダイムシフトのひとつとして『キュア中心からケア中心へ』が挙げられており、『疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す「ケア中心」の時代への転換』を図ることが掲げられている。
そもそも「医療」とは「治療(キュア)」を目指すものであり、そのために数々の医療技術が開発されてきた。しかしながら、20世紀末にはすでに医療実践のほとんどは患者を治すことが主目標ではなくなっていた。病院は「病気を治すところ」ではなくなっていて、「ケア中心の医療」に移行してきていた。でも、「ケア」という日本語には、「世話をする」とか「面倒を見る」というような上から目線の福祉の押し付けのような含意が付きまとっているので、なんとか打開策はないのだろうかと模索していたところだったからだ。
そこで出会ったのが、クイーンとスティービーワンダーの歌詞というわけ。
もちろん、英語のcareにも「面倒」とか「心配」といったネガティブな含意があるのだけれど、「love」と結びつけられる文脈で語られるときには「大切にする/幸せにする」という含意が表に出てくるということなのだ。
とするならば、日本語の「ケア」も「愛情」と結びつく文脈を用意すれば良いのではないかと思った次第である。
「相手を想うケア」とか「大切な想いを表すケア」といったような言葉が「ケア」の標準形になることを願っている。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男