とある健康講座での話。
その日のテーマは「ぐっすり眠るために」。
冒頭、「睡眠について何か問題を感じていますか?」と問いかけてみた。
「目覚めが悪い」
「夜中に目が覚める」
など、いくつかの症状が語られたのだけれど、私が驚いたのは
「24時間眠い」
という訴え。
「24時間?」
と、自分の耳を疑った。もしこれが「一日中眠い」ということなのであれば、熟睡できなくて起きている間は常時眠気を感じるのかと合点がいくのだけれど、「24時間」なのだから昼間だけではないということ。
そもそも、「眠い」ということが問題になるのは、「起きているべき(眠ってはいけない)時に限られるはず。思わず、
「夜も眠いのですか?」
と尋ねてしまった。
よくよく話を聞いてみると、日中に眠気が続くこともさることながら、夜中もいろいろなことが気になってなかなか眠れないとのこと。つまり、物理的に「眠れない」ということなのではなくて「精神的に眠れない」という状態だということが分かった。
個別の対応であれば、もう少し深くお話を伺って時間をかけて善処したいところなのだけれど、集団講座なので一般論を述べることしかできず、忸怩たる思いが残った。
なんとか、心の重荷を降ろすことができるようにと念じるほかはない。
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そういえば、ひと月ほど前、ゼミの学生から授業欠席(寝坊)の連絡があった。
「昨夜不眠でずっと眠れませんでした。今朝6時頃に寝ました。目覚まし時計が聞こえず、寝坊しました。…(A)…今日は休ませていただきます。…(B)…」
とのこと。
思えば、「授業」という世の中の定めがあって、それに合わせて寝たり起きたりしている学生としては、起きるべき時間に起きられなかった(休んでしまった)ことに罪悪感を覚えてしまうのも無理からぬこと。上記の省略箇所(…)には、
A:「本当に申し訳ございませんでした」
B:「次回注意します」
という文字が添えられていた。
このラインがあったのは昼の12:50。これを見た私としては、「授業に来なかったこと」よりも「6時間以上も眠れた」ということにまずは安堵した。
そもそも、このケースでの問題は、「寝坊したこと」なのではなくて「眠れなかったこと」だ。当然のことながら「何が心配になって眠れなかったのだろう」ということが私にとっても懸念なのであって、もしかしたら私の指導が厳しすぎたのかもしれないなどと勘繰ったりもしたし、彼の学習環境が乱れたのだとしたら、その原因を取り除くことができるように支援しなければいけないと、あれこれ考えたりもした。
でも、あまり干渉するのはよろしくないので、その後は特にその件に触れてはいない。
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「眠りたいときに眠って起きたいときに起きる」という生活が理想なのだけれど、私たちは社会や他者に依存しながら生きているので、自由気ままに寝たり起きたりできないということが、根本の問題なのだと思う。
寝過ごして約束を果たせなかったとしても気にしないで許容できる世の中になる、なんてことはきっと無理なのだろうけれど、少なくとも「気になることが多くて眠れない」=「熟睡できなくて昼間中眠い」というような悪循環を起こす人が一人でも少なくなってほしいと、心から願っている。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男