阪神タイガースがセリーグ優勝を果たした。
9月に入って連勝しているさなかに、「阪神優勝なら経済効果872億円余」というニュースが報道された。試算したのは関西大学の宮本勝浩名誉教授。
この「経済効果」は、一言でいうと「阪神優勝によって、どれだけ多くのお金が使われるのか」ということを推計するもの。
えっ、「お金を使うこと」が経済効果をもたらすということ??
このからくりは、「使われたお金」が「お店の売上」になることで合点できる。経済の規模は売上の総額で表されるので、「使われたお金」が多ければ多いほど経済効果が高いということになる。
優勝が懸かってきた8月~9月のタイガースの試合は、普段よりも観客数(すなわち入場料収入)が増えるし、クライマックスシリーズのファイナルが最低でも3試合(阪神3連勝の場合)、最大で6試合が甲子園球場で開催される。つまり、1試合1億円を上回る入場料収入に加えて、放映権料も支払われるので、10億円近い売上増となる。
ちなみに、「阪神優勝」によって膨らむのは次のような売上(支出)。
・甲子園球場での売上げ(入場料・球場内販売)
・阪神百貨店などでの優勝セール
・飲食等の関連支出
・マスコミ(スポーツ紙など)関連の売上
・タイガース関連商品の売上
この中で規模が大きいのが「飲食等」の売上。今回と同じく18年ぶりの優勝となった2003年には、タイガースファンがシーズン中に(余計に)消費した飲食代が700億円超に上ったとの試算もあった。
そして、見逃せないのは、これらの「売り上げ増」によってもたらされた従業員の所得増大効果。飲食店の売上の多くは仕入れ原価に投入されるので従業員の賃上げには繋がりにくいかもしれないが、増えた食材も元をたどれば農水産業従事者の所得につながる。そして一般的には、国内で売り上げられた金額のほとんど(外国との輸出入差分を引いた額)は、日本国内の「だれかの収入(所得)」となる。
「金は天下の回り物」とも言うけれど、私たちが「支払った金額」は、巡り巡って「だれかの所得」となるのだ。その「だれか」には自分も含まれるというわけ。「年金は増えないでしょ」と思われるかもしれないけれど、年金を支えている若者たちの収入が上がれば、年金財政も長持ちするかもしれない。
だからこそ、「どれだけ多くのお金が使われたのか」ということが「経済効果=良いニュース」として報じられることになるのだ。
とすると、「お金は使えば使うほど景気が良くなって収入も増える」という言い方は、あながち間違ってはいない。
ところで、私は前回「スイミングクラブの値上げ」のことを話題にした。
コロナ後の料金改定を総括すると、平均で5~7%程度の値上げとなった模様。
この値上げによって利用者が減ってしまえば「売り上げ増」にはならないので、「経済効果」にはつながらないけれど、利用者が値上げを受け入れて継続してくれたとしたら、社会全体では「経済効果」となる。その見極めは、消費者が抱く「値ごろ感」に依存する。「スイミングの料金はこの程度が標準」という皆が納得する金額が「標準価格」となるのだ。
その標準額は高い方が良いのか、それとも安い方が良いのか?
さて、大学も含めて教育学習支援業では他の業種に比べて人件費の比率が高い。我が早稲田大学も下がってきたとはいえ収入の5割程度が人件費(30年前は6割だった)。それは教育業の本質が指導者(教授)の知識・技能に依っているから。「だれもができるアルバイト」が指導するのなら本物のスクール(教育業)とは言えない。
今回のスイミングクラブの値上げに際しては、
》経費の削減及び運営の合理化に取り組んでまいりましたが、
》自助努力のみで吸収することが困難な状況
として月会費値上げを発表したクラブもあったようだが、高騰する燃油代を賄うための値上げならば、私たちの増加負担は中東のオイルマネーに転嫁されるだけになってしまう。「スクール」の財産は「指導者の質」にあるのだから、値上げした分のいくばくか(多く)は指導者の人件費に充てられてしかるべきだと思う。
「値上げした分は賃金に転嫁してスクール指導の充実を図ります」
などといった理由で正々堂々と値上げできないのはどうしてなのだろう。
(人件費よりも資材経費が大切なのだろうか?)
そのような値上げ理由が受容されるような世の中になれば、
「物価が上がると皆の収入が上がるようになる」
とか、
「お金は使えば使うほど所得が増える」
というようなメッセージも浸透するようになるだろう。
少なくとも、
「職員人件費を増額しないのなら、スイミングスクールは値上げすべきではない」
と、私は思うのである。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男