WWNウエルネス通信 (2023年6月11日):「スポーツ中継の現状」

先週金曜日(6月9日)午後、Sports Video Group JAPAN(SVG)が主催するフォーラムに参加した。

SVGとは、スポーツの映像制作・配信に関わる様々な企業や団体が、映像配信技術について情報交換する業界団体で、カメラや通信機器等のメーカーや放送局などを中心としてスポーツリーグやクラブなども含めた様々な関連企業・団体が関わっている。

「テレビ スポーツ制作のリーダーや日本のリーグや連盟の幹部が集まり、スポーツ テレビの技術と制作の将来について話し合います」

と告知された今回のフォーラムでの私の役割は「地域とスポーツ、メディア」と題するパネルディスカッションのコーディネータ役。ともすればスーパーボウルやUEFAチャンピオンズリーグ(ちょうど本日未明に決勝戦が世界配信された)などのビッグイベントが注目される中、ローカル放送局やケーブルテレビなどの地域配信局の役割や可能性を探求することが趣旨であった。

1か月ほど前にも4名のパネリストと意見交換をして、各々のパネルの内容とディスカッションの方向性について意見交換・調整を果たし、準備万端に臨んだ(はずだった)。

ところがフォーラム冒頭、SVG編集局長のKen Kerschbaumer氏による講演の中で飛び出した、

「これから注目される焦点はUHDとHDRです」

という言葉に、

「???」

となって慌ててスマホで検索したりして、この分野の知識を私は全く知らなかったという事実に驚愕した。

 その後も、「米国で行われるスーパーボウルの番組制作がオランダで行われている」とか、それを支えているソニーの技術の話などを聞くにつけ、私が司会進行を務めるセッションがどのように役に立つのだろうかと、ただただ恐れおののくばかりだった。

 私のセッションの前の休憩時間に、パネリストとしてお話しいただくことになっていた奈良テレビの方に、

「あのような機材はお使いですか?」

と尋ねると、

「一代前のソニーのシステムを導入している」

とのこと。競技会場とは離れた場所で中継番組制作を行うことを「リモートプロダクション(リモプロ)」と呼ぶそうなのだが、

「米国とヨーロッパの間には極めて大容量の通信ケーブルが敷設されているので米国-オランダ間でのリモプロも可能ですが、奈良県内で甲子園予選の全試合中継をやろうとしても通信回線の使用料が莫大なのでなかなか採算にのらない」

とのこと。技術の進化は激しいけれど、その技術を実現するためには「ローカル」ならではの課題があるということを知って、私のセッションの役割もあるのだと安堵したのであった。

ところで、くだんのパネルディスカッションもなんとか無事に終わり、最後にNHKの技術局の方が最新の動画伝送規格について講演された中で、

「NHKでも広島にリモプロの施設を設置して先のG7サミットでも活用した」

との話のついでに、ちょうどその日の夕刻に、zozoマリンスタジアムで行われる千葉ロッテvs広島カープの試合を、

「千葉から渋谷(放送センター)を経由して広島で番組制作を行い、そのまま広島で放送(配信)する」

という逸話をご披露くださった。渋谷-広島間にはNHKの専用回線が設置されているようで、奈良テレビとはスケールの異なるゴージャスな実験放送が想像された。

帰宅後にネットで確認すると、確かに、千葉での「ロッテvs広島」戦がNHK広島(地上波)で放送されていたのと同時に、その試合の映像は、千葉テレビでも放送されたほか、DAZNやパリーグTVなどでも配信されていたことを知った。かつてであれば、中継する放送局がスタジアムにカメラや機材を持ち込んで番組制作していたので、その映像が他局で配信されることなどありえなかったのだけれど、今では試合の中継映像を主催者(この場合は千葉ロッテ球団)が制作して、それを各配信会社に提供するという形態になっていることで実現できるのだ。NHKでも「千葉ロッテから提供される映像に加えて、独自に持ち込む2台のカメラでカープベンチや応援席などの映像を差し込む」とのことだったということを思い出した。

私が知らない間に、スポーツ中継の映像制作や配信の状況がずいぶんと変わっていることに、改めて時代の変化を感じた。

ついでに、夕刊の番組表を見ると、同時刻にエスコンフィールドで行われる「日本ハムvs阪神」戦がNHKのBSで中継されていた。先週日曜日に浸っていた「北広島の思い出」は、火曜日からの広島戦での3連敗に終わってしまったけれど、エスコンフィールドで観戦した2万5千人超の入場者のほかに、放送や配信でさらに多くの方が視聴している(できる)という現実。そしてそれが、様々な関係者が果たしてきた技術革新の成果であることを実感した1日であった。

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/

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