昨日、大阪(阪南大学)で学会があり、出張した。朝早くて日帰りができないことに先月中ごろに気づいたため、慌てて大阪駅周辺(梅田)のホテルを探した。
いつものサイトで検索すると、トップに「アパホテル&リゾート〈大阪梅田駅タワー〉」が出てきた。よく見ると、「2月1日オープン」とのこと。オープン前のキャンペーンとしてトップに表示されるように広告していたのだろう。
値段も手ごろだったので、早速予約。
「そういえばAPAホテルには宿泊したことがなかったなぁ」
と意識し、
「それにしても『&リゾート』というからには何か特別なのだろうか?」
との疑問もわいた。
詳細は省くけれども、今般のホテルは「そういうことなのか」と感心させられる程にICT化が進んでいて、自動チェックインはもちろんのこと、客室に入ると、
「思ったものが思ったところにある」
という徹底ぶり。部屋内WiFiのルータが「部屋番号」だということはすぐわかったのに、その「パスコード」を探すのに机上のQRコードでアパホテルのWebサイトを探したりしたところがちょっと時間を要したけれど、入室と同時に映るTVの大画面に大きく書かれていたのをようやく見つけて失笑した。
それはさておき、大浴場とコンビニの組み合わせには感心させられたとはいえ、新しいホテルというのはこういうものなのだろうと高をくくっていた。部屋に戻ると、机上の右上に何冊かの本が並んでいる。欧米のホテルでは引き出しに聖書が置いてあるのが普通だけれど、ここにあるのは「私が社長です」とか「本当の日本の歴史」という冊子類。
「ははぁ、これが噂のAPAホテルの陳列本か」
と合点して、幾つかを読み始める。
「本当の…」は、APAホテル代表の元谷外志雄氏がペンネーム(藤誠志)で毎月執筆しているコラムとのことだが、「こういうように考えている人なんだなぁ」と受け止めた。もちろん、その内容を否定するつもりは毛頭ないけれど、かと言って賞賛するつもりもない。いわば、私には決して書けない《放談》の部類の意見表明ということ。
社長の元谷芙美子氏の「強運: ピンチをチャンスに変える実践法」も、なるほどと思える普通の書籍だった。
ところが、奥に並んでいた「逆境こそ光輝ある機会なり~今から始まるAPAの世界戦略」という、自己出版色満載の宣伝本を開いてみて驚いた。
同グループ代表の元谷外志雄氏の自伝とも言えるもので、ビジネスで成功した方の自伝と同様の思いで読み進めたのだけれど、その遍歴が圧巻だった。
「遍歴」というと、とても尋常ではない人生を送ったような印象を与えるかもしれないけれど、その経歴は極めて「普通」。「勉強のできるちょい悪」のような子供時代の体験話や、大卒入社3年目で信金労組のトップになる段までの経歴は「尋常ではない」かもしれないけれども「異常」でもない。でも、その後のすべては、おそらくは「唯一無二」の人生遍歴といっても過言ではないだろう。
元谷氏は1943年(昭和18年)生まれで、私より14歳年上。私が物心ついた時が「中学卒~高校時代」で、元谷氏が慶大を卒業して小松信金に入社したのが1965年(昭和40年)のこと。このころ以降の時代は、私も肌で体験してきたので、「長期返済住宅ローン」だとか「宅地開発」の話などは、
「なるほど、時代の先見性があったのだなぁ」
と感心する程度だった。
しかしながら、バブルの絶頂の前に「土地/住宅開発」に見切りをつけてホテル事業に参入。
バブル絶頂時の不動産売却益を航空機リースの減価償却で損益相殺して利益を先送り。
その後も次々と事業を拡大して収益を拡大していく。
という様は、私が目にしていた「時代」を少しずつ先取りしていった様子が手に取るようにわかって興奮した。
たかが「ビジネス成功者の自伝」にここまで熱中したのは初めてのことだった。
そうやって、APAホテル滞在を振り返ってみると、
「もう少しトイレの便座前スペースがあれば良かったのに」
と思った残念感も、
「スペースを売るのではなく満足を売る」
という元谷氏のポリシーを読んだ後ではすがすがしく感じたほどだった。
数年前に東京中心部に大量展開したAPAホテルは、これから海外へと拡張していくのだという記述に触れて、「&リゾート」の意味にも納得した。
学会も成功・充実していたのだけれど、今回の出張は「開店10日目のホテル」の思想を堪能できたことが何よりの収穫だった。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男