WWNウエルネス通信 (11月27日):「食べると太る」という原理の前提

 先週金曜日。学部生向けの授業のゲストとして競泳選手の瀬戸大也さんにお越しいただいて話を伺った。

 早稲田大学1年生(2013年)の世界水泳で金メダルを取って以来大きな注目を集め、東京オリンピックでの金メダルを目指してトレーニングを積んできたのに、突然の「延期」。一時は「放心」ともいえる状態に至ったようだが、今はパリでの金メダルを目指したトレーニングに励んでいるとのこと。

 その詳細はさておいて、私がとても興味深かったのは、東京オリンピックまでは74~76kgの体重を維持していたようなのだが、コーチを変えて「トレーニング重視」のメニューに切り替えてからは体重が増えて、今は81kg程度とのこと。管理栄養士もついていて、毎食の写真を送ってチェックしてもらうのだけれど、基本的には「食べたいものを食べたいだけ食べる」という考え方のようだ。「1日何カロリー」というような基準を決めて管理するのではなく、「必要な栄養は身体が自然と求めるもの」という基本思想の下で「身体に選ばせる」という考え方はとても新鮮だった。

 トレーニングによって体重が増えたことによって、これまで以上に泳ぎが力強くなってタイムが縮んだとのこと。来夏(福岡)の世界水泳(オリンピック前年の世界水泳で金メダルを取ると翌年のオリンピック代表が内定する)を経てパリでのオリンピックを迎えるこれからの2年間がとても楽しみだ。

 ところで、私たちは普通、「たくさん食べると太る」「運動すると体重が減る」と思いがちなのだけれど、それは各々「運動量が同じ」「栄養摂取量が同じ」という無意識の前提があってのこと。瀬戸選手の場合は毎日4000カロリー以上食べているとのことであるが、トレーニングをするほどに体重が増える(軽くすると体重が減る)という状況にあるらしい。「トレーニングによって筋肉が増える=体重も増える」ということは、考えてみれば当たり前のこと。逆にいえば、トレーニング強度が低い日には食欲も多くはならず、筋肉が減った分だけ体重も減るということになる。彼のように厳しいトレーニングを重ねているアスリートにとってみれば、「トレーニング量が多ければ太る/運動量が少なければ痩せる」という原理があるらしい。

 このような話に接して、「最期を迎える間際の高齢者」の話を思い出した。

 私には直接の経験はないのだけれど、死を直前にした方は食事をほとんどとらなくなるのだという。「食べられなくなるのではなく、必要がないので食べなくなる」ということらしい。だから、終末期を看取る医師たちは、食べる量が少なくなると「そろそろかもしれない」と感じて、経管での栄養補給は最低限にとどめるらしい。

 おそらく、ベッドの上での生活に必要な分だけを「食べたい」と感じるようになっていて、最後に近づいて代謝量が少なくなってくると食欲も減じていくのだろう。

 ほとんど運動(エネルギー消費)をしない私にとってみれば、「食べれば増える/食べないと痩せる」ということが当たり前で、それは敢えて言えば、運動とは関係のない「食欲」に支配されているということだ。

 授業が終わって彼と一緒に昼食を摂った。バイキングだったのだけれど、彼がテーブルに並べた皿は、「アスリート飯」からは程遠い、どちらかというと少な目の分量。

 「それで足りるのですか?」

と尋ねる私の方が多かったような気がする。

 思えば、その日は朝1番の授業に来てもらっているのだから、「練習していない」ということ。

 「食べたい量が必要量」

という心境に達していることも、アスリートの“さわやかさ”を支える要因なのだと、思い至って反省した。

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/

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