掲題の書(和田秀樹著、詩想社、2021年6月刊)を読んだ。
5月の初めごろに、日経新聞の広告で目にして、読もう(買おう)かとも思ったのだが、当時は「暇と退屈の倫理学(國分功一郎著、新潮文庫)」を皮切りにして、数々の哲学書を渉猟していた時だったので、思いとどまった。
「20万部突破!」
と標ぼうされた広告欄の冒頭には、
「一気に衰えるのか、若さを持続するのか、その分岐点は70歳にある!」
とのフレーズが飾られる。そして、
・いまの70代は、かつての70代とはまったく違う
・肉を食べる習慣が「老い」を遠ざける
・70代の運動習慣のつくり方
・長生きしたければダイエットをしてはいけない
・いま飲んでいる薬を見直してみよう
・認知症は病気ではなく、老化現象の1つだ
などなどと、「その通り」と思える目次のコピーが並ぶ。
ふとそのとき、「なんでこんな当たり前のことを読みたくなるのだろうか?」との疑問が沸いた。私にとっては、見出しを読んだだけで書かれてあることが想像できるほど「当たり前のこと」なのだけれど、それがこれほど仰々しく記されているということは、もしかしたらほとんどの(60歳代の)方々にとっては「新しい知見」なのだろうか?
いやいやそんなはずはない。「20万部」とはいっても、3000万人にも及ぶ日本の高齢者の中では1%にも満たない。おそらくは、このような記事に興味を抱くのは、よっぽど健康意識と知識レベルの高い方々だろうから、このような知識は当たり前のようにわかっているに違いない。ならば、どうしてこのようなコピーに心が動かされる(読んでみないと思う)のだろうか。
およそ、本題からは外れたこのような思考を巡らせた結果、購入(読むこと)を思いとどまった。
ところが、先月初め。帰宅してみると食卓の妻の席にこの書が置いてある。聞くと、「知人が貸してくれた」とのこと。「私はもう遅いけどあなたならまだ間に合うでしょ」と渡されたらしい。その方は、不自由なく元気に過ごしている方なので、自身の60歳代を振り返って満足(確認)しているのだろうか、なるほどそういう読み方もあるのだなぁと納得しながら手に取ってみた。
ぱらぱらとページをめくりながら読み進めると、案の定5分で読み終わる。
「やっぱり、当たり前のことだった」
と感心しながら、それでも読んでしまう自分の気持ちを振り返ってみると、やっぱり「確認⁉」。
表紙カバーには、
「若さを持続する人・・・・・→」
「一気に衰える人の違い・・・・・→」
という2つのフレーズが中央縦に並べられて、その矢印の先が分かれ道になっている。
おそらくは、自身の健康への意識が高くて、「80歳を超えても私は元気」と確信しているような方々が、自身の生活習慣が正しいことを確認するためにこの書を読むのだろうと、改めて納得した。
同じ著者による続編、「80歳の壁(幻冬舎新書、2022年3月刊)」も、すでに10万部突破だとか。
もちろん皆様が興味をお持ちなのであれば、読んでいただくことはとても価値高いと思うのだけれど、この書のタイトルに興味を持った瞬間に、すでに「若さ持続への分かれ道」を進んでいるのではないかと、私は確信する。
「自分の人生への興味」、すなわち70歳を超えてからの自身の人生をどのように過ごしたいのかという夢や展望を持っていることこそが、「元気の秘訣」なのだと思う。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男