昨日、魚住サロン(指導者を対象とした研修会)を開催した。
メンバーの一人であるFさんを対象として、Fさんが抱える「右肩の痛み」という症状を解決する技法を学んだ。
最初は、数名のメンバー(指導者)が各々に問診しながらFさんの右肩の痛みにアプローチした。ある方は右肩を慎重に触りながら本人の痛みの感覚を問いかけ、「今は無理に動かさずに様子を見た方が良い」と言う。別の方は、肩甲骨の硬さを指摘して、上腕を動かしながら肩関節の動きを導こうとする。また、ある方は、立位での姿勢のゆがみ(右骨盤の高さと左右方の捻じれなど)を指摘して、左足荷重の生活によって右肩の硬直が生じているのではないかと指摘する。
各々の指摘とアプローチはそれぞれに合理的で、Fさんも「少し軽くなったような気がする」と応えていた。
魚住先生の見立ては、「右肩の筋肉(三角)の硬直」。おそらくは、肩周辺や上腕の筋肉が固まりやすい生活(例えば右肩を下にして寝る癖がある)などによって普段から右肩周辺の血液のめぐりが円滑ではなかったところに、ワクチンの筋肉注射によって、刺入部位(三角筋)が極度に硬直したのが原因なのではないかと指摘して、肩周辺の筋肉を緩める手技を施した。
このアプローチによって、肩の動きが円滑になり、Fさんも「軽くなった」と応えていたが、驚いたことに、その直前に指摘された「姿勢のゆがみ」も整っていたこと。そのような姿勢のゆがみを招来する「日常生活」があったのではなくて、「右肩の硬直と痛み」を気遣って(補おうとして)姿勢が歪んでいたのだということが判明したのだった。
私たちは、身体ケアの専門家として、様々なクライアントの「問題」に対峙する。
たとえそれが「トレーニング指導」であったとしても、ほとんどの顧客(クライアント)が求めているのは「トレーニングの環境」や「指導の言葉」それ自体なのではなくて、それらを通じて自身の身体(ひいては人生そのもの)に関わる「問題」を解決したいと願っている場合が多い。
例えば「トレーニング」とか「体操」といった言葉で、それを実現する環境を提供するのがフィットネスの中心商品だとしても、コンビニの棚から持ってきた商品をレジでお金と交換するような単純な価値交換で済むはずがない。その当人(顧客)は何らかの「問題解決」を図りたいと願っている「クライアント」であると位置づけて、その問題解決を図れるようにするのが本来のフィットネス指導の在り方だと、私は信じている。
それはさておき、今回の研修会では、ただ単に「問題解決の技法」を学ぶだけではなくて、ご本人が「自身の身体が整っていないことに気づく」という課題を設定した。
アスリートの場合は、日々の練習や競技会に際して、自身の動きやパフォーマンスの微妙な違いに気づき、その「整っていない原因」を理解することによって、それを修正することが可能となる。私たち(指導者)は、その「選手の感覚」と「整っていない原因」を対比させて納得してもらうことで、選手自らが自身の動きを修正できるように導くことが指導の理想だと考えている。
しかしながら、一般の方(特に高齢者)の場合は、日常生活の中で身体の不整に気づくことは極めてまれで、多くの場合は「痛み」が生じてから、その痛みを消すという形でアプローチがなされることが通例だ。じつのところは、その「痛みが生じた原因」を解き明かして、「痛みの原因の解消」が図れれば良いのだけれど、シップや痛み止めといった対処療法で終わることも少なくない。理想的には、当人が「からだが整っていないこと」に気づいて自ら修正できるように仕向けることができれば良いのだが、なかなか容易ではない。
これまでも、このサロン(研修会)では、一般の方の悩みを受け止めて、その解決法を探ってきたのだけれど、これからは、「からだの状態(整えられていないこと)に気づくこと」の大切さについても、研鑽を深めたい。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男