WWNウエルネス通信 (5月29日):「あぐら座りと股関節のしびれ」

本日、安美錦関(安治川親方)の断髪式に参列した。

後援会長が最初にはさみを入れた後に、主要な後援者たちが続く。

66㎝の高さの土俵に上がって進む足取りがおぼつかない方が少なくない。

最初は、「歩けない人が来ているのではないか?」と思ったりしたのだが、それにしても土俵上の歩様が平常とは思えない方が、あまりにも多い。

 よくよく見ると、土俵の上に敷かれた赤いカーペットが俵の段を隠しているので、でこぼこに気づかずに足を取られているのかもしれないとも感じた。それにしても、足元のおぼつかない人が多すぎる。土俵で「断髪」に参列する方々のほとんどが高齢者だとしても、ちゃんと歩けない人がこれほど多い場をこれまで見たことがなかったので、正直びっくりしたと同時に、その謎を探ろうと、いろいろと思考を巡らせた。

 答えはすぐに見つかった。

 100人以上過ぎたところで、ブラジル人の名前が呼ばれた。サッカークラブの指導者のようで、40歳台~50歳代前半にしかみえない元トップアスリートなのに、土俵に向かうまでの歩く姿がぎこちない。もちろん、土俵に上がるときも土俵上でも、時々よろけているように歩んでいる。

 「足がしびれていたのか?」

 断髪者は、土俵下の溜席(たまりせき)の座布団にじっと座って待機している。敷き詰められている座布団は前から二列ごとに20cmほどの通路がある以外は座布団が敷き詰められていて、前(後)にも左右にも自由に動けない。あぐら姿勢に慣れていない外国人にとっては、30分ほどの座布団席はとてもつらかったのではないだろうか。

「そういえば」と気づいて私もその場で立ち上がろうとしたところ、ふらついて立てない。かれこれ1時間以上、狭い座布団の上でのあぐら座りを続けていたのだった。

 つまり、断髪に臨む方々の歩みがぎこちなく見えたのは、(本当に杖で歩みが不自由そうに見える方もいたのだけれど)座布団上でのあぐら姿勢で腰膝が固まってしまった所以なのだと合点がいった。

 さて、私の順番まではまだ50名ほどあったのだけれど、用心のために溜席から離れて通路を歩いてみた。靴を履くときと通路に出るときに手すりが欲しくなる(でも無い)状況に戸惑いながらも、しばらく歩いて足腰を慣らした。

 「気づいてよかった」

と安心しながらも、なかなか違和感がぬぐえないことに一縷の不安もよぎる。

 さて、いよいよ私の名前が呼ばれる。まだ腰関節に違和感は残っていたが、それとは気づかれないように静かに歩みを進める。土俵に上がって「中に入ってください」と促された際に、土俵の俵のでっぱりに足を取られて少しよろめいた。

 「あっ、やってしまった」

と、思いながらも、無事「断髪」を終えることができた。

 終わってみればなんということのない「よろめき」も、窮屈な座布団上のあぐら座りのせいだと思うと納得できる。それにしても、大相撲を愉しむ方々は、よくこんな狭い席で何時間も耐えていられるのだろうかと、あらためて感心させられた。おそらく、観戦中や帰路で違和感を覚えたとしても、その「よろめき」自体をあぐら座りの所以と思うことはないのだろう。

 私は、椅子の生活になれてしまっているので、特に座布団座りの影響も大きいことだろう。普段から畳・座布団に慣れている方々には、私のような違和感は少ないのかもしれない。

 その後の「中入り後」の幕内相撲を眺めながら、もう一つ気が付いた。

 東西の土俵の前には、取り組み中の力士の他に2名の力士があぐら座りで待機する。呼び出しから土俵を降りるまで、3分ほど(本場所では5分以上)なので、自分が土俵に上がるまでに5~6分ほど(本場所では8~10分)は座って待機することになる。

 呼び出された力士は、力水を受けてしこを踏んでから蹲踞姿勢で相手と正対し、立ち合いまでの一連の流れ(塩をまいて向き合って間合いを合わせる)を繰り返す。その間、両ひざに手を当てて腰を落として股関節をストレッチするようなしぐさをする力士もいるのだけれど、5分以上のあぐら座りの影響が、それだけの動作で解消してしまっているということに、さらにびっくりした。というか、あれだけの太い太腿の持ち主が、Ⅰ~2度のしこだけで直ちに「準備万端」になってしまうということが、にわかには信じられなかった。

 そうやって眺めていると、待機中に左足を伸ばしている力士がいた。その力士は外国籍の力士だったのだけれど、もしかしたら、日本の畳・座布団・あぐら座りに馴染み切れていないのかもしれないと密かに思ってみた。

ところで、今はもう23時を迎えようとしているのだけれど、これを書いている今(国技館を出てから6時間後)になっても、股関節の違和感が残っている。

やはり、私には相撲観戦は向かないのだろうか?

Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男

http://wasedawellness.com/

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