さて、その簡潔な本書の読解法であるが、以下に挙げる本書の本質を踏まえることが肝要であろう。
- ここには、魚住先生がこれまでに培ってきた膨大な知識と理論体系のエッセンスが、きわめて簡潔に記述されているだけである。
- その「理論体系」の根幹を理解し、背景理論(原則)を把握することで、本書の読解が容易になる。
- さらに、実際の整体動作が必要な局面(それによって対象クライアントの問題が解決できるようになる場面)において、実践動作を試すことで、理解を深めることができる。
- 少なくとも、記載されている字面を表面的に理解しようと努めても、得るところは少ない。
さて、私はここまで、本書がいかに不親切な書かを論じてきたように感じた方もいるかもしれないが、決してそんなことはない。魚住先生は、ご自身の理念(思想体系)をきちんと伝えるべく本書を構成しているのであって、上記の「2。理論体系の根幹」を理解するうえで、重要な記述はきちんと記されている。
まず、本書を貫く基本原則は以下のとおりである。
【Ⅰ】動かさないから固くなる/動くことによってからだの機能の平衡が保たれる
- 皮膚・筋膜・筋肉・関節を動かさないから固くなる(p.6、1行)
- ヒトのからだ(細胞)は動くものであり、動かせるものであり、動いているものである(p.6、5行)
- 「固まる」原因は、動かさなくなった、動けなくなった、動かしすぎたことである(p.6、9行)
【Ⅱ】柔らかい、弾力性・復元力のある筋肉(良)/硬い、弾力性・復元力のない筋肉(悪)
- 筋肉が働くことは、酸素を取り入れ血液循環・リンパ循環を良くする。(p.6、16~17行)
- (動かない・動かせない)元凶は皮膚・筋膜・筋肉の硬さからからだのバランスが崩れたことである。(p.7、3~8行)
- 強い・硬い筋肉は、健康な・元気な体にとって必要ではない。必要なのは、全部の細胞が活性化したからだである。(p.8、5~6行)
- 全細胞の活性化は、からだを動かすことである。(p.8、1行)
【Ⅲ】中間位
- 最大の問題は、中間位を見つけることである。(p.9、12行)
- 中間位をとれないのは、中間位がずれていることであり、ずれた状態で関節を動かしていることがバランスを崩しているのである。(p.9、17行)
- 動かない・動けない・動きにくいという問題は、中間位からずれた状態で動かしている。(p.9、18行)
この3原則を踏まえれば、第一原則の「動くこと⇔動かないこと」という対比も、単に「動けばよい」ということではなくて、「中間位からずれた状態」での「動き」は、かえって「硬い筋肉」をもたらす要因になるということがわかる。(※2)
そして、上記原則が魚住先生の理論体系の第1軸だとすると、「皮膚・筋膜・筋肉のつながり」というタイトルで表現された本書の根底を占める軸(第2軸)の基本原則は、次のようになるのではないだろうか。
〔ⅰ〕「皮膚・筋膜・筋肉」は重層的につながっている。
- 筋肉だけが単純に働いているわけではない。筋膜・皮膚・関節も一緒に働いている(p.63、15行)
- 皮膚を動かしたら筋膜・筋肉・骨・関節も動くし、…四層一緒に動かすことで四層のバランスが整う(p.64、2~6行)
〔ⅱ〕「筋膜」は「筋肉」の動作連携を支持・補助する機能を持つ
- 体幹の胸腰筋膜は広背筋と考えることができ、下肢の殿筋筋膜は大殿筋を覆っているので、広背筋と大殿筋のつながりであるともいえる。(p.24、1行)
〔ⅲ〕「筋膜」は「柔らかさ/硬さ」の要因となる
〔ⅳ〕「筋膜」は「皮膚」から操作・調整できる(外からは皮膚からしか操作できない)
上記は、私が理解するために設定した「第2軸」なので、必ずしも魚住先生が本書の中で明示している概念用語なのではないのだけれど、少なくとも、一般的な「筋膜」についての知識があれば、上記のような「第2軸」を理解することができるだろう。「筋膜」については、本書の中ではp.69~70に簡潔に示されているが、この「簡潔な表現」を咀嚼理解できるかどうかが、本書の理解のための基盤となるのではないだろうか。
また、本書の中では明記されていないのだけれど、例えば次のような補論(補助線)を想定すれば、魚住先生の理論体系は少しわかりやすくなるのではないだろうか。(※3)
(A)筋トレは筋肉を硬くする。
(B)ストレッチは筋肉・筋膜を緩めない。
(C)皮膚から筋膜や筋肉を刺激して筋肉を緩めることができる。
魚住先生の注記
※2:この3原則がからだを整えて、健康体・自然体を獲得することにつながると思っています。
※3:このことは、言いたいことではあったが、ストレッチに傾倒している人たちが多いために理解できないだろうと思い、まとめの中ではほとんど触れていません。この3つは、指導に携わる人たちには理解してもらいたいことではあります。