「ヒトのからだは皮膚・筋膜・筋肉のつながり~実践編~」の読み方(4)読解が困難な「実践編」の読解法

例えば、第5章「胸腰筋膜と殿筋筋膜のつながりを整える」(p.24)の冒頭、

「胸腰筋膜と殿筋筋膜のつながりが体幹と下肢のつながりであるので、それを整えることがからだを整えるために重要」

という文字面を読めば、「そんなものなのか」と認識できたとしても、それに続く

「体幹の胸腰筋膜は広背筋と考えることができ、下肢の殿筋筋膜は大殿筋を覆っているので、広背筋と大殿筋のつながりであるともいえる(写真13)」

という文字列に出会ったときに、そのまま腑に落ちる人は多くはないだろう。それは、結局のところ

「広背筋(胸腰筋膜)と大殿筋(殿筋筋膜)の《左右交差》のつながり」

を意味するのだけれど、上述の3行を読んだだけで、それが

「右の胸腰筋膜が仙骨で交差して左の殿筋筋膜につながっている」(p.24、9行目)

という理解に直結するとは考えにくい。

もちろん、「写真13」を見ると、左半身の広背筋(1)、胸腰筋膜(2)に加えて、右半身の大殿筋(3)に番号が付されているので、写真から理解すれば「左右交差」のイメージを刷り込んでしまうものと思うのであるが、ここで重要なのは、左上肢から背面(広背筋~大殿筋)を介して右下肢に連なる運動連鎖の連携ラインの存在なのであり、例えば、

》左手でボールを投げるときに右足が軸足になる

という動作をイメージして、下肢~上肢の左右交差ラインを認識できるかどうかがポイントとなる。

本書第5章の解説文末尾には、

「つまり、上肢と下肢が広背筋(胸腰筋膜)と大殿筋(殿筋筋膜)でつながっているジャンクション(筋膜の連結部)であるということである。」(※1)

と、簡潔な結論が記されているので、その「連結部」の重要性が認識(把握)できたとしたら、そのような動作連携のラインを正常化するための手続きとして、続く「技法」の記述を理解することが容易になるだろう。

おそらくは、魚住先生は「上下肢交差ラインの連結部」として「仙骨」の重要性を認識していて、そこに「胸腰筋膜」と「殿筋筋膜」のつながりという「筋膜連携」に気づいたことで、本章の記述となったのだろうと邪推することができるのだけれど、それを知らない読者にとっては、「胸腰筋膜と殿筋筋膜のつながりを整える」という文字面を目にしても、どれだけ本当の理解につながるかは疑問である。

これは、本書の不備なのでは決してない。もちろん、そもそもが魚住先生本人のための「備忘録」だという本書の性質もあるのだけれど、どのような書であっても、背景や基本認識を共通にしていなければ著者が伝えたい要点を新たに気づけるようになることはないのであるから、本書のこのような記述は「秘伝の書」の基本ともいえる。

それよりも、読者にとって重要なのは、本書の記述を文字通りに理解しようとしても、その根本原理や問題論点を知らなければ、本当の理解に到達することができないということ。

例えば、上記の「広背筋と大殿筋の連結」については、T.マイヤー氏の「アナトミートレイン」という筋膜連携の思想体系の中では、「バックファンクショナルライン」として提示されているものに相当する。しかし、これとても、実際の(アスリートなどの)運動動作の不調という問題を基盤として、その解決技法として位置付けて理解するのでなければ「修得」することはできないだろう。

A4判300ページ超の書籍に加えて多数のWeb動画で解説される「アナトミートレイン」に比べたら、A5判100ページの本書の記述がいかに簡潔であるかを、読者は覚悟して読み取らなければならない。

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魚住先生の注記

※1:ここでは、筋肉のつながりではなく筋膜のつながりであることを、念のために()付けを入れました。本来は私のまとめなので、読む方のために作ったものでないためにこのようなことは起こると思います。

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