「ヒトのからだは皮膚・筋膜・筋肉のつながり~実践編~」の読み方(2)魚住先生の体験と気づき:「筋膜」についての再認識

魚住先生が「筋膜」について「勉強」し、それまでの理論体系の更新に取り組んでいたのが2020年のこと。もちろん、それ以前から筋膜への注目と理解は途切れることはなかったのだけれど、世間では「コロナ禍」に振り回されていたころ、魚住先生は「筋膜」に関する最近の知見を振り返り、思索を深めていたということ。

思えば、1980年第以降、私が学んできた身体科学の分野で、もっとも注目される臓器は、心臓や血管などの平滑筋も含めた「筋肉」であった。「筋膜」は、文字通り「筋肉を包む膜」という位置づけ(筋肉を観察するためには取り除かれなければならない組織)としてしか認識されていなかった時代もあった。それが、今世紀に入って、ただ単に臓器の「境界」として組織間を結合する機能だけではなく、様々な運動連鎖・動作連結の媒介(というか中心)として機能する側面や、運動に関する知覚や痛みを感知する役割も果たしていることが注目され、「筋膜リリース」などといった俗な用語の氾濫とも相まって、多くの注目を集めるに至った。

魚住先生は、それまで様々な筋肉の働きに精通して、トレーニングやパフォーマンス向上、痛みや機能低下へのアプローチなどに成果を発揮してきたのであるが、「筋膜」という新たな機能の理解を加えることによって、その理論体系が更新されたということ。

ちょうど、2020年11月に1か月ほど入院した際に、「なぜかからだが柔らかくなり…顔のバランスも整ったことに気づいた」とのこと。そこから「筋膜に興味を持ち、からだのつながりに興味を持って…筋膜に対するいろんなアプローチを考え、実践するようになった」という。つまり、「その1」から「その3」さらには「実践編」にいたるこのシリーズは、それまで「筋肉」を中心としてきた運動器の理論体系を中核として、その調整に「皮膚」からアプローチしてきた魚住先生の実践整体体系があり、そこに「筋膜」という新たな「つながり」機能を差し込んで、魚住理論体系を再構築したプロセスが記された書なのだということである。

その「再構築」のプロセスは、「皮膚・筋膜・筋肉のつながり」というタイトルに凝縮されているのであるが、「その3」では「骨・関節」へと「つながり」が拡張し、「実践編」ではさらに「神経」にまで拡張していることが、先生の発想・探求がまだまだ発展継続途上であることを伺わさせる。

つまり、「発展途上」である「実践編」なのだから、そこに「正解」があると信じて、記載されている言葉をそのままなぞることで「良い成果が上がる」というように無条件に信じて再現したとしても、おそらく得るものは少ないだろう。

読み手としての理想的な態度は、本書に記された文字列ではなく、記されていない事柄、さらには魚住先生がこれから見つけるであろう「進化」の軌跡を一緒になって想像し共有することなのではないだろうか。

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