本日は、品川講座。「歩き方を育てる」というタイトルで、今期最終回の講座を行った。
昨年も同じテーマで行ったのだが、その内容と、そこでの私の気づきは以下に記したので、ご参考まで。
さて、同じテーマとはいえ、今回は、以下のような新しい話から講座を開始した。
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一人ひとりの顔や声色が違って、顔や声色で個人を識別できるように、「歩き方」も人によって様々かつ特徴的です。
世間には、「健康づくりのための歩き方」とか「美しく見える歩き方」など、いわゆる「正しい歩き方」というような解説もありますが、世の中に「正しい顔」という考え方がないのと同様に、人間にとっての「正しい歩き方」があるわけではありません。あくまでも、「エネルギーをたくさん消費できるように」とか「速く歩く」、「美しく見せる」などの目的を達成するために適合した「歩き方」があるにすぎません。
そのような考え方の下で、私たちは「日常生活を楽に(負荷を少なく)する」ということを目的とした「歩き方」を研究してきました。
そんな中、歩くときに「足が前に出る」と認識している人が意外に多いということに気づきました。実際には、足裏で地面を押した反力(足裏から受けた前向きの力)で、骨盤から上(上体)が前に進むことになるので、どちらかというと「足裏を後ろに送り出す」という言い方が適切なのですが、「足を前に出す」ことで「身体が前に進む」というように理解している方が少なくないということです。
足を前方に振って、踵から着地すると、着地の際に地面から後方の力(ブレーキ力)を受けるので、「エネルギーをたくさん使う=筋や骨に負荷をかける」という意味では、歩幅の大きな「しっかり歩き」が珍重されるのです。しかしながら、「身体に負荷をかけない=なるべくエネルギーコストを少なくする」という観点では、身体の前方で着地するのではなく、骨盤の下で着地して、そこから足裏を後ろに送り出すような歩き方が望まれます。
とはいえ、「歩き」というのは無意識に行われる動作なので、「歩き方」を意識したとたんに、脳が混乱してぎこちない動きになってしまいます。本日の指導ではなるべく「言葉による意識づけ」は控えるようにいたしますので、「結果」として「楽に歩けるようになったかどうか」を、歩き終わった後で感じて(チェックして)いただきたい。
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さて、そのようにして奥田さんに引き継いだのだが、冒頭、奥田さんから「何か質問はありますか?」と尋ねたところ、
・最近、足が地面に擦るようになったので、足が上がるような歩き方を教えて欲しい。
・膝に負担がかかるような歩き方をしていると指摘されたので、直したい。
などの要望が寄せられた。
どちらも、「脚を前に出す」という意識から生じている混乱だ。
期待通りの「質問・要望」を頂いて、奥田さんの「解説」が始まった。
途中から、フリースペースでの実技になったのだが、「右手右足・左手左足を一緒に」とか「こぶしを斜め上に突き上げながら」とか、「途中でステップ台を踏んで(通過して)歩く」などと、様々な「歩き方」を繰り返す。
もちろん、30人近くもの人々が一斉に歩くのだから、いきなりスムースにできる人もいれば、なかなか所望の歩き方が実現できない人もいる。でも、何度も繰り返している間に、少しずつ皆の足音が小さくなっていった。
足音が小さいということは、着地の衝撃が少ないということ。それはすなわち「負荷の少ない歩き方」に近づいて行ったということだ。
「楽な歩き方」を指南することはなかなかに難しいのだけれど、ここでもまた「勝手に身体に気づいてもらう」というやり方で、皆の歩き方が自然に整っていったのだった。
それよりも驚いたのは、参加者の多くが自身の身体の変化に気づいて、講座の途中や終了後に、自身の痛みや姿勢の違和感などについての個別質問がたくさん寄せられたこと。それらの一つひとつに二人で応答しながら、品川講座の手ごたえを感じたのであった。
今年度の品川講座(7回シリーズ)の後半、「立ち方、座り方」~「お口とお尻を締め直す」~「歩き方」という流れは、昨年度と同様だったのだけれど、終わってみると、昨年よりもかなりグレードアップしていたと感じることができた。
来年は、どのような講座にしようかと、今から期待に胸が膨らむ。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男