私は今、那須に滞在している。
この地に居宅を購入したのが5年前のこと。那須に人縁があって、たびたび訪れていたので、2015年秋からの研究休暇の後半を那須で過ごすことにして、その滞在中に見つけたのが今の住まい。2016年夏に購入した。
那須に数ある分譲別荘地の一つで、総区画数が1100。そのうち、850区画ほどが分譲され、そのうち408区画に家が建っている。その3割(117戸)は、住民票を持ついわゆる「定住」の方。残り7割がいわゆる「別荘」として利用している。両者を合わせた「住民」が、管理組合を構成して、水道や道路管理などを担っている。
ところで、昨今の「田舎住まい」のブームもあってか、那須地区の「別荘地」も流動が激しくなっているようで、そこ此処で新しい家が建っているしリフォームも多い。私がこの地を購入したときには全く想定していなかったのだけれど、オンラインで授業や会議が済んでしまうご時世なので、もしかしたら、このまま「定住」できてしまうかもと、予定外の幸運にも期待している。
それはさておき、我が家の近所でも、この1年間で3件ほどが新築(建築中を含む)。8月からは、私の住まいの2区画南(隣の隣)で樹木の伐採工事が始まった。分譲済みの850区画のうち、残りの半分(450件)ほどの区画は林のままだったわけで、地権者が望めば、いつ家が建ってもおかしくはない。私の家の南隣の2区画は樹木で覆われていたので、我が家の庭からは隣地の林が臨まれていた。その隣の隣の区画で樹木が伐採されて家が建つわけであるから、我が家から見える景色も変わることになるのだろう。
もちろん、他人の土地だし、そもそもが「借景」だったわけなので、私たちはそれに口をはさむ立場にはない。それどころか、むしろ隣地がまだ残されている僥倖をかみしめなければならないのだけれど、100坪ほどとはいえ樹木を伐採するわけだから、最近連日、チェーンソーの音がひっきりなしに響く。
私の妻は、「何本かでも残してくれたら良いな」と淡い期待を口にする。どう考えても、我が家の土地に元からあったはずの雑木は一本も残ってない(すべて伐採された)くせに、他人の好意に期待するなんて恥ずかしい限りだ。でも、毎日響くチェーンソーの響きは、そのたびに淡い期待を壊していく。
そのようなチェーンソーの響きが数日続いたある日のこと。突然、インターネットの通信が滞る事件が起こった。
我が家は、光回線の契約をしていない(もしかしたらまだ光ケーブルが通っていない?)ので、NTTの4G回線(スマホの無線通信)につながる無線ルータで接続している。ネットにつながらないと、私の仕事に支障をきたすので、別の予備のルータ(au4G)も用意していて、その日は、私のzoom会議の同じ時間帯に妻もzoomを使いたいというので、念のため、私は予備ルータを使用した。
ところが、妻のパソコンはうまくつながらなくなって、ダウンロードもフリーズするような状態に陥ったとのこと。あやうく、私のzoom会議のせいにされそうになってしまったのけれど、「私は別ルータ」ということで難を逃れた。しばらくしたら、使えるようになったのだけれど、原因はわからない。
と思った矢先、また通信が滞ってしまう。予備ルータは月間使用量に制限があるので、私もNTTルータに切り替えていたのだけれど、フリーズしてしまった。
そんな時、突然にチェーンソーの響きが唸り始めた。
「そうか、チェーンソーのせいだ。チェーンソーが無線を乱しているのよ!」
と、突然妻が叫ぶ。
どう考えても、4Gの無線通信周波数とチェーンソーの《音》が干渉するとは思えないのだけれど、目の前の不都合と同期する「いやな音」に敵意を感じてしまうのは、もしかしたら人の性(さが)かもしれない。自分の土地の元雑木が残されていない(すべて伐採した)ことには気にせずに今残っている他者の雑木が切られることに心を痛め、ネットのフリーズという苦難と共に起こった《無関係の事象》を非難する。
オリンピックが終わってもなお激増するコロナ感染の被害を、今度はパラリンピックのせいにしようとしている輩もいるようだけれど、これもまた、「何かのせいにしたい」という人の本性かもしれないと、あらためて思い至った次第である。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男