少々間が空いてしまったが、「痛み」の話に戻りたい。
前回「第18回」では、「高齢者が悩まされる慢性痛(検査しても判明しない痛み)の多くは、肩・腰・膝などに集中する痛みセンサー(受容器)が検知するもので、その原因が関節に集中しているわけではない。身体の様々な組織を結びつける〈膜〉の張りは、何度も繰り返される習慣的な動きに適応して結合組織(コラーゲン)を変性させ、この〈コリ〉が蓄積されて〈膜〉に加わる力の伝搬を不全にすると、その力が作用する関節に「痛み」を感じることになる。」ということについて解説した。
では、この〈コリ〉=〈痛み〉を改善するにはどうしたらよいのか?
私が知己を得ている「筋膜マニュピレーション」という手法では、〈コリ〉を生じている〈膜〉に摩擦・圧揉を施して解きほぐすのだが、それには専門的な知識と技術が必要なので誰もが試せるわけではない。
一般的には「筋膜リリース」などと称して様々な手技が紹介されているが、ここの動作を正しく実施することができないと、かえって状態を悪化させる可能性もあるので、その指導には十分な配慮と時間が必要である。
というようなことは、結局のところ後付けの理由なのだが、私が提案したいのは、「楽に動ける」という〈考え方〉と、簡単に間違いなくできる体操だ。
まず、「楽に動ける」という考え方。
例えば、「椅子からの立ち上がり」。椅子に座っている状態から立ち上がる時に、膝に手を突いたり机を支えにしたりなどということをせずに、「楽に立ちあがる」技法がある。「立ち・上がる」というくらいだから、多くの方は「上に向かう動作」だと思っている(それは物理的には正しい)のだが、どちらかというと「上体を前に動かす」というイメージだ。具体的には、次のように動作する。
① 両足を肩幅程度に広げて椅子に座った状態から、上体(上半身)を前方に傾けて胸を膝に近づける。この時、「コマネチライン」と呼ばれる大腿の付け根に両掌を上向きに挟んでお腹の脂肪と太ももを挟み込むように意識するとよい。
② 上半身の重みが膝の上にかかるようになると、お尻(座骨)の荷重が薄れて、両足の上に荷重されるようになることを感じる。
③ 体重が両足裏に感じたら、そのまま立ち上がる。
骨盤(座骨)で支えていた上体の重心が両足裏に移行することが「立ち上がり」なので、上体を前方に傾けて〈膝上=両足〉へと重心を前方移行させることが肝になる。これによって、お尻が椅子から離れて両足裏にきちんと全身が荷重してしまえば、膝が痛くても不便なく立ち上がれるのだ。座るためにはその逆動作をすればいい。逆にいえば、このように立ち座りができていれば、膝・腰に関わる筋肉に余計な負担をかけなくても立ち座りができるので、〈膜〉の〈コリ〉も生じないし、膝が痛くなったりしない。
(続)
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