30年前の整形外科の診察室では、「膝が痛い」という患者の訴えに対して、レントゲン検査で「異常なし」と判定された場合には、
「気のせい」「年のせい」
と片付けられて、湿布薬や鎮痛剤が処方されるということも多かった。
でも、前回述べたように、痛みや苦しみの原因が別の部位や過去の出来ごとにある場合もあると理解すれば、膝を検査するだけでは原因究明には不十分だ。さらにいえば、〈今、痛い部位〉の痛みを鎮痛するだけでは本当の解決にならない。
高齢者が悩まされる慢性痛の多くは、肩・腰・膝などの関節に発症する。これは、痛みを脳に訴える受容器(センサー)が関節に集中しているからであって、その原因が関節に集中しているわけではない。「膝に異常があるから膝が痛くなる」「「膝が痛いから膝に湿布薬を貼る」という考え方に縛られるのはやめたほうがよい。
前回も述べたように、身体の様々な組織を結びつける〈膜〉は、身体を動かす際の力を伝達して、何度も繰り返される習慣的な動きに適応して、力が集中するポイント(多くは関節以外の箇所にある)の結合組織(コラーゲン)を変性させる。これを私は〈コリ〉と呼んでいる。この〈コリ〉が蓄積されて〈膜〉に加わる力の伝搬を不全にすると、その力が作用する関節に「痛み」を感じることになる。
ところで、この〈コリ〉は、動きの癖の結果として身体に刻まれるので、あたかも身体の歪みを記憶するかのような作用をもたらす。身体に〈コリ〉として記憶された日常動作の癖は、だんだんと蓄積されて、ある時「痛み」として姿を現すことになる。
また、〈膜〉は全身を包むとともに、足から頭までの動きを連結させているので、この〈コリ〉が動きの癖を増長させて、他の箇所の動きを不全にして、別の場所に〈コリ〉を生成させる。あたかも、ある場所にできた〈コリ〉が、動作に影響して、手足から頭蓋までのあらゆる箇所に〈コリ〉を伝染するかのように見える。
このような〈コリ〉の連鎖は、姿勢の歪みをもたらし、さらなる〈コリ〉や〈痛み〉の原因となるのだ。
では、この〈コリ〉=〈痛み〉を改善するにはどうしたらよいのだろうか?
(続)
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