【17】「痛み」の原因はどこにある?

以前(第12回)、15年ほど前から注目され始めた「筋膜」を通じた身体理解によって、それまでのように運動を個々の筋肉の単位だけで考えるのではなくて、筋膜のユニット・筋膜配列全体の動きとして再構成することができること、また痛みの解消に関しても新たなアプローチが可能になることを紹介した。

「筋膜」とは、各組織をつなぎ合わせる役割を果たす結合組織のことで、英語ではfaciaと表記される。筋肉を包む膜Myo-fasciaとは異なりもっと大きな意味をもつのだが、最初に「筋膜」と訳されてしまったので、いまではこの語が通用している。

それはともかくとして、「筋膜」に注目することによって得られた大きな発想の転換は、「痛みの原因と発生個所は同じではない」ということだ。例えば、膝の痛みを訴えて検査を受けても「異常なし」と判断されることがある。そのような時、じつは痛みを感じる箇所以外に〈痛み〉の原因があることも多い。

全身のすべての組織はボディスーツのような〈膜〉で包まれていてつながっていて、この〈膜〉が動きの力を伝える。もしいびつな動きをしているポイントに力が集中し続けると、そこで結合組織(コラーゲン)が変性して〈コリ〉ができ、動きにくいポイントが主として関節にできる。

そうするといびつな動きが増幅されて、別の場所に〈コリ〉が伝搬する。〈コリ〉によって生じる力のひずみが、関節痛などとして発現する。これが「痛み」が生じるメカニズムの一つなのだ。

例えば深爪とか靴ずれなど、ちょっとしたことをかばう動きがあると、そのいびつな動きを代償するように、全身の動きがいびつになる。それは、全身の筋膜のそこかしこの〈コリ〉としてその痕跡を残す。そして、あたかも〈膜の記憶〉のように、ある時思わぬ箇所に「痛み」として出現することもある。

もちろん、

 「膝をすりむいて出血した箇所が痛い」

 「転んで打撲した尻が痛い」

 「深爪したつま先が痛い」

などという急性の症状の場合は、原因が〈擦過や打撲〉にあるわけで、痛みの〈原因〉と〈症状〉とは部位も時期も一致する。

これに対して、

 「膝が痛い/腰が痛い/肩が痛い/…」

といった関節に感じる慢性の痛みについては、その関節自体、特に関節内部に原因があるとは限らないということだ。痛みや苦しみの〈箇所〉と〈時間〉の一致性(因果関係)は必ずしも成り立たない。ひらたく言えば、痛みの原因は、別の場所や過去の出来ごとの場合もある。今、痛い場所の痛みを鎮痛するだけでは本当の解決にはならない。

(続)

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