歩く身体を前に進めているのは、足裏が接地している支持脚(に受ける地面からの力)なのに、「右」と言って歩き始めるときに、多くの人は「右脚が前に出る」。
このことは、私にとって大いなる驚愕の事実だった。
そして、実際に行った緊急アンケートにおいても、9割近くの方が「右脚を前に出す」と回答した。
それは、私たちの大多数は、「右足から歩く」と意識する状況においても、「右足裏から力を感じる」という感覚では歩き始めないということを意味する。
つまり、「歩く」という動作において意識される脚は、歩きを実現する支持脚の側ではなくて、前方推進には関わらない反対脚(遊脚)だということ。
これこそが、私にとっての「大いなる驚愕」の本質だったのだ。
意識した(振り出された)側の足が、腰の真下で地面からの反力を受けるのであれば負担にはならないのだけれども、腰よりも前方で踵から着地すれば、その地面反力は文字通りに進行方向とは“反対向き”に作用して、前方への進行をストップする(ブレーキとなる)減推力となる。
これまで私は、このような歩行(ウォーキング)が流行ったのは、1980年代後半から始まった「健康ウォーク」の影響だと思っていたのだが、もしかしたら、日本に軍隊式歩行(行進)が導入された明治の初期にまで遡るのかもしれない。
そういえば、今でも、小学校に入ると、運動会を通じて「行進歩行」が教えられている可能性がある。
そうやって、日中の街角にあふれる「保育園児たちの歩み」を見ていると、私たちの歩行様態とは全く異なっていることに気づく。
皆と一緒のペースで歩く(行進する)ということを訓練させられて初めて、今の私たちのような「普通の」歩行様式が獲得されたのではないか。
こんなことに気づいたのが、1月24日の品川講座の休憩時間での出来事だったというわけ。
これはもしかしたら、すごい研究テーマになるかもしれないという予感を胸にして、それからしばらくは「歩き方」のことを考え続けていた。
(この項は終り)
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