今から30年ほど前のこと。

健康運動実践指導者の養成テキストの中に「ウォーキングの正しい姿勢」に関する記述があった。

曰く、

• 頭は揺らさずしっかりと。
• 目線はまっすぐ15m先。
• 呼吸は自分のリズムで。
• 肩は力を抜いてリラックス。
• ひじをやや曲げて腕を大きく振る。
• 腰の回転で歩幅を広げて。
• ひざを伸ばして大きく前へ。
• 着地はしっかりかかとから。

　20年ほど前（1998年）に、私が初めて「ウォーキング」についての講座（教室）を開催した際に、そのうんちくを使わせていただいた。大学の先生が一般大衆相手に健康づくりの話をするということが珍重されていた時代のこと。今とは違って、知りたい情報がネットでなんでも手に入るという時代ではなく、それなりの書物や文献に当たらないと情報が得られなかった時代だからこそ許されたことなのだろうけれど、今から振り返ると汗顔もの。

　私が付け焼刃で指導書の中から見つけたそれらのうんちくは、私の大学院の指導教授から伝搬されたものであり、日本ウォーキング協会が主催するウォーキング講座でも教授されていたことなので、当時の私はそれを伝え教えることに疑問を持たなかったのだ。

　でも、その後私が、日本スリーデーマーチを筆頭とする様々なウォーキングイベントに参加してみて、上述のような「正しい歩き方」をしている人は皆無だということを知った。それよりも、実際にウォークイベントのコースを歩いてみて、そのような「しっかりウォーク」を続けると、足にまめができたりひざを痛めたりするということも体験したのであった。つまり、かならずしもそれは「正しい歩き方」ではないということなのだ。

　また、ウォークイベントの参加コースが、20kmを超えて30km、50kmと長くなっていくと、「長い距離を歩くためには《ゆっくり歩く》ことが必要だ」ということに気づくようにもなった。

　でも、「どうしてこのように負荷の高い歩き方が推奨されたのか」という疑問が解消されるまでには、それから10年の歳月が必要であった。

そして得た結論は、

　「日常を穏寧に過ごすためには、《楽に歩く》ことが大切だ」

ということ。

　《しっかりウォーク》については、「健康のため」と称していまだに推奨されているようだ。身体が丈夫で少々の無理があっても平気な（若い）方ならば問題ないのだが、年を重ねて無理がきかないと感じている方ならば要注意。足腰を痛めてしまう可能性もあるので、くれぐれも「楽に歩く」ことを大切にしていただきたいと、私の過去の自戒をこめて密かに心配している。

（続）