本年1月から始まったコロナ禍は、2月には国内感染者の発現、3月には各種イベントの中止・延期、そして、4月には緊急事態宣言発布と自粛生活(ステイホーム)の普及と、その影響が次々に拡大した。フィットネス関係でも、3月に営業制限あるいは自粛したクラブの再開は、6月以降にずれこみ、その後も退会者増加や来場者の抑制など、経営環境に大きな悪影響をもたらした。
この間、80店舗近くが閉鎖されたし、フィットネス業界全般への逆風が止まらないかのような印象を持つ方もいる。もちろん、その“逆風”は事実である。
ところで、一般に、「2年後に起こると想定されたDXが2か月で達成された」とか「20年後に予想された未来が2年間で実現する」といったように、今般のコロナ禍による社会の変化は、「コロナのせいで変わった」というよりも「コロナをきっかけとして変化が加速された」という側面があるのではないかと言われる。このように急激に変革する社会状況の下で、大きなダメージを受けた企業体や組織もあるが、一方でその環境変化に適応して成長する企業も少なくない。フィットネス業界においても、衰退を余儀なくされる業態や店舗もあるかもしれないが、その影響が軽微でとどまる企業や組織もあるし、逆に発展する業容もあるようだ。
社会の大きな流れとしては「デジタル化(DX)」や「非接触」というキーワードで表象されているので、フィットネス業界においても、「オンラインプログラム」や「ネット系サービス」が注目されることも多い。しかしながら、今般の社会情勢の変化を「20年後に予想された未来が2年間で実現する」というように、そこに潜む大きな変革の流れが加速されて起こるだけという観点でとらえるならば、「オンライン」や「ネット系サービス」といった技術的な問題としてではなく、その「大きな変革の流れ」をきちんと読み取って、「起こるべき未来」を適切に認識することが必要であることは言うまでもない。
さて、ここに至るまで、ずいぶんと長い論考となってしまったが、「新時代のフィットネス」を見据えるにあたって、留意しなければならない「大きな流れ」の特徴は以下の通りである。
1)《鍛える》から《整える》への転換
2)《指導》から《教育》への転換、
3)《個人》の重視
この3つの大きな流れは、これまでの30年ほどの間に緩やかに進行し、それが間もなく表舞台に登場しようとしているということである。このことは、以前(6月23日付本欄)にも触れたことではあるが、この「フィットネスの根本原理の変革」が世の標準となる前(なろうとしている時期)に、ICTの変革と普及が同時並行で進んでいたというのが、「コロナ禍」に直面した私たちを取り巻く基盤環境だったということ。
それを感じ取っている(先進的な)方々の中には、「そんなこと当たり前」と思っている方もいるだろうし、このような表現とは違う考え方でこの流れを体現している方々も少なくないと思う。そのような先進的な方々にとっては、今般のコロナ禍のダメージは少なく、逆にそれがチャンスと見えるような場面に遭遇することもあるかもしれない。
要は、「施設集約型サービスからオンラインプログラムへの拡張」などといった技術的な取り組みというよりも、「そもそもフィットネスはどのような価値を提供すべきなのか」という根源的な問いかけこそが求められるのである。
そして、指導者・インストラクターにとっては、〈顧客のために何ができるか〉という視点がますます望まれるのだ。
(JWIコネクトに連載中。閲覧はアプリから→ https://yappli.plus/jwi_sh )
(Swim Partner 第9号、2020年12月25日にも転載いたしました。)