【16】「言ったじゃないか!」(2020年10月13日)

前回、「話しても分からないことがある」と認識することは、新しい時代のフィットネスにおいても重要な考え方だし、新時代のインストラクターが習得すべきスキルの一つにもなる。と結んだ。

「話しても分からないことがある」という状況を端的に物語るのが、「言ったじゃないか!」という慣用句。

英語にも、“I told you!=言わんこっちゃない”という慣用句があるほどで、おそらくは世界中に存在するものだと思うのだが、この句が発せられるのは、次のような状況の時であろう。

  1. この句の発言者(A)が相手(B)に対して、何らかの言葉(メッセージC)を発語した。
  2. Aは、Bの態度や発言から、以前Aが発語したメッセージCを相手Bが理解していないことに気づいた。
  3. Aは、Bが(せっかくAが告げた)Cを理解していないことに驚いた。

ここでの〔3〕は、Aが「話しても分からないことがある」ということに全く気づいていないことを物語っている。

私たちは、他人と会話をしているとき、自身が話した言葉は相手(この場合はB)に届いていて、それを相手が理解していると思い込みがちである。しかしながら、上記の例が示すように、「話せば分かる=話した言葉は相手が理解する」ということを信じ込んでしまって、あとでそのことに気づいて驚いたりあきれたりすることが珍しくない。

指導者は、主として言葉を通じてクライアントにサービスを提供する。そして、その《言葉》を聴いたクライアントがそれを理解していなかった場合、「話したことは伝わっている」と指導者が思い込んでいたとしたら、クライアントの間に認識の齟齬が生じる。

動作や身振りなどの場合は、それが出来ているかどうかは見ればわかるし、「理解したけれどもできないこともある」と納得して話し方(伝え方)を変えてみようと努めるかもしれない。しかしながら、運動の意味や効果に関する話だったらどうだろうか。あるいは、健康的な生活習慣に関する指導だったら、上述の〔3〕のようなこと(理解していないことに驚く)が起こってしまうかもしれない。その時、

「以前申し上げましたけれど…」

などと口にしてしまったら、これからのフィットネスの現場では指導者失格といっても過言ではないのだ。

 そんな時、「話しても分からないことがある」ということをコミュニケーションの原理としてわきまえた上で、「話したけれどたぶん伝わっていない」と覚悟しておけば、クライアントの何気ない所作振る舞いの中から、それが伝わっているのか伝わらなかったのかが把握できて、クライアントとの間に齟齬をきたす可能性も低くなる。

 フィットネス業界は、サービス=奉仕を提供するサービス業だから、昔のスポーツ界のように「何故できない!」などとコーチが選手を叱責するようなことは起こらないのだけれど、そもそも、《フィットネス》が目指す「良い状態」の具現者、すなわち《フィットネスの当事者》は、指導者ではなくてクライアントなのだから。

(続く)

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