前回、新時代のフィットネスで流行り始めるオンラインプログラムの要件を述べる中で、ラジオ体操を例に挙げて、100年前に開発された初代オンラインプログラムの指導構造に触れた。
ラジオ体操の場合、行われている「運動・動作」は、誰がやってもどこでやっても、いつでも同じ音楽に合わせて同じ動作を行うのであり、動作の順番を示すインストラクションも音楽とともにラジオから流れてくるから、「指導者」は、台の上で参加者に向かってミラーイメージで模範動作を行うだけで済む。
では、エアロビクスのインストラクターの場合はどうであろうか?
エアロビクスは、ラジオ体操とは全く違う。比較するのがおこがましい。と思う方も多いことだろう。では、何が決定的に違うのか。
ラジオから流れてくる体操は「第一」と「第二」の二種類。その間に挟まれた「頸の運動」もあるけれども、ほぼ毎日、同じ曲に合わせて同じ動作が繰り返される。それに対して、エアロビクスは、「基本」「アドバンス」「ラテン」などなどと、目的や技術レベルもそれぞれで、音楽も違うし、同じ「基本エアロ」のプログラムであっても、インストラクターによって各々の「独自プログラム」が実施されている。
その意味ではラジオ体操とは全く異なる。しかしながら、「参加者すべてが同じ動作をする」という点ではラジオ体操と類似している。その同じ場所と時間を共有している参加者にとっては「同一」内容の運動が提供されているということ。でも、各々のプログラムの狙いや対象者ターゲットが異なることがラジオ体操と根本的に異なるのであって、「ターゲットの集団ごとに異なるプログラム内容が提供される」ということが「運動指導技術の進化の賜物」なのだ。
ラジオ体操が生まれた100年前と比べると、1960年代の科学的研究成果を踏まえて生まれた「aerobics」という技術を基盤とするエアロビクスは、ラジオ体操よりもはるかに進化したプログラムなのである。「心臓循環系を鍛える」とか「体脂肪を燃焼させる」とか、目的別にプログラムを構成することができて、参加者は自分の狙い(目的)に適合したプログラムを選択することになる。
ところで、もしも、若い女性がシェイプアップを目指して行っている「中級エアロ」のプログラムに、脚腰のおぼつかない高齢女性が申し込んだとしたらどうなるだろうか?動作は緩慢で、腕が肩よりも上がらない。おそらくは、参加を断られるのではないだろうか。みなと同じ動きができない参加者が混じると、ケガをしないかと心配になって、インストラクションに集中できないかもしれない。もちろん、熟練した指導者ならば、きちんと目配りができて安心なプログラムを提供できるかもしれないが、それがオンラインだったとしたらどうだろうか。オンラインプログラムは、参加者の動きを完全にモニタすることが難しいし、参加者が多くなるとなおさらである。
ところが、ラジオ体操の場合は、そのような心配は無用。会場に若い女性がいても、歩くのがやっとという高齢者がいても、小さな子どもがいても、皆一緒の会場で「同じ動き」を行うことができる。厳密にいうと、同じ動きを行っているというよりも、「各々ができる範囲の動きを勝手に行う」ということになる。
そうなのだ。ラジオ体操は、100年前に生み出された当時から、参加者制限不要(無限大)のオンライン(放送)プログラムだったのだ。つまり、来るべき新時代に求められるオンラインプログラムでは、同一音楽・同一動作のインストラクションにおいて、どのような方が参加してきても、各々の動作をインストラクターがモニタすることなく(あるいはAIがモニタして)、安全安心に運動を遂行して、各々が目指すレベルの目標を達成できるようになることが究極の理想となる。
エアロビクスは確かに「目的別プログラム」へと発展した。でも、それは50年以上前の理論に準拠している。来るべきオンライン時代に求められるのは、同じ音楽・インストラクションで一斉に運動しているように見えても、一人一人が自身の身体状況や体調に合わせて、各々の目指す目標が達成されるようになることなのだ。
参加者数上限が無制限の「ラジオ体操」に学ぶことは少なくない。
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