新常態のスイミングクラブ~その1~

2020年春に始まったコロナ禍は、社会の隅々に様々な傷跡を残した。日本でも4月には「緊急事態宣言」が発布されて、イベントや集会の自粛に留まらず、各種業態の営業時間短縮や自粛(休業)が要請された。一般国民に対しても不要不急の外出自粛が要請されたが、「ステイホーム」などという言葉を流行らされたおかげで、室内での巣籠りを余儀なくされた方も多かった。スイミングクラブもその例にもれず、多大なる影響を受けたし、その「傷跡」を引きずっている施設も少なくないのではないだろうか。

5月に緊急事態宣言が解除されて「新常態(ニュー・ノーマル)」が模索されている昨今であるが、この「新常態」の意味を量り間違えると新たな時代の波に乗れなずにとんでもない事態を招く危険がある事から、今回緊急に意見を申し述べる次第である。

「緊急」という用語に違和感を覚える方もいるかもしれないが、今が「緊急」の時期なのだということに気づいていない方は要注意。いつかは元に戻るという「安心・安定を求める気持ち」が、これからの生き残りを妨げることになる。

前置きが長くなったが、要点を述べると次のようになる。

  1. 今年春から生起した様々な社会環境・生活様態の変化は、コロナウイルスの《せい》で(その対策として)起こったことばかりではなくて、そのほとんどは、「数年後に起こるであろう変化が一気に先取りされた」ということ。
  2. 今模索されている「新常態」は、「コロナウイルス感染予防」という観点から求められるというわけではなく、時代の流れの中であらかじめ準備されてきて、もしコロナ禍がなくても10年後には当たり前になっているであろうと想定された「常態」である。
  3. その新常態を表すキーワードは、「非接触/オンライン」であり。フィットネス・スポーツの分野にも広く当てはまる。
  4. これに対応して、従来の施設中心のサービスはニーズを減らして「オンライン型」が流行ってくるが、「施設型サービス」については、「非接触」を中核とした新たなサービス(プログラム)を開発することで、新たなニーズを取り込めるようになる。
  5. スイミングは、「施設」がなければ整理しない運動形態なので、「オンライン指導」の入り込む余地が(皆無ではないが)少ないので、「非接触」のビジネスモデルを開発・提供すべきである。

まず、この新たな生活環境が「コロナウイルスのせい(コロナ対策としての変化)」ではないという考え方であるが、これはもはや言わずもがなではないかと思うのだが、如何であろうか?

たとえば、私の大学では、今期の授業がすべてオンラインで行われた。昨年度までは1%程度の授業でしか行われていなかったので、多くの教員は戸惑い模索して、学生の中には「コロナ」を恨む者もいた。でも、私がこの春に急遽Webから学んだ情報のすべては、本学が昨年秋から用意していたinstruction情報であり、コロナ禍対策として用意されたものではない。フィットネス業界で流行り始めた「オンラインプログラム」も、今回のコロナ禍に対応した「急ごしらえ」の感を抱かせるものもあるが、オンラインプログラム自体は以前から行われていたものであり、それが存在していたからこそ、多くのインストラクターがzoomなどの既存技術を活用するようになったということである。元の「直接対面型」が復活することはあっても、これまで同様に復帰することはないし、オンラインプログラムがなくなることもない。

企業のテレワークだって、「これまでなかなか進展しなかったのに、今回一気に普及して嬉しかった」と漏らす経営者もいる。

ディズニーランドが厳しい入場制限を課して、「専用の日付指定チケットの予約が必要」とのことで、チケット予約サイトへのアクセスが殺到したようであるが、「入場制限(当日チケット販売の中止/混雑時に入場制限されるチケット)」自体はこれまでも行われてきていたし、その《制限》のレベルを調整しただけのこと。欧米の博物館や美術館には、以前から「事前予約(日時指定)チケットによる入場制限」を行っていた施設も多い。要は、スタジアムにしろ文化施設にしろ、「満員」になれば入場できない(入場制限する)という事態があったことは、古今東西当然のことであった。つまり、結局は「満員のレベル設定」の問題だけなのだ。これからは、「満員」のレベルに対する「標準感」が緩和(定員減少)されるということ。

スポーツの世界でも、「無観客(リモートマッチ)」からゲーム(リーグ)が再開され、「5,000人規模」という入場制限から初めて、徐々に観客数を増やすという方向が模索されてはいるが、それは、従来の座席配置を前提にしてのことであって、隣の席との接触や、ビールなどの売り子への注文(商品と料金の受け渡し)を通路まで続く他のお客さんに委ねるような状況を、じつは誰もが喜んではいなかったはずだ。11年前(2009年)に竣工した広島のマツダスタジアムでは、「寝そべりあ」という「クッションに寝そべってくつろぐシート」や、「焼肉シート(グループ席)」や「パーティルーム」などなど、ゆったり楽しむ観戦席が、当初から用意されていた。つまり、旧来の座席を「一つ置きに利用」などの急場しのぎの対策はすぐに鳴りを潜めて、ラグジュアリー(高付加価値)化に移行していくことが想定される。そう断言できるのは、これまでの10年間の観戦サービスの変化の帰結であり、コロナが起こったから(感染予防意識から)ではなかったということが、その根拠である。

(続)

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