「コロナ感染にマスクによる熱中症が立ちはだかつてきました」
とのメールを、新宿ウオ-キング協会の会長を務める小林昌仁さんからいただいた。
詳しい理由は記されてはいなかったが、
「協会の7月の行事は引きつづき中止することにしました」
とのこと。会報で告知したのだという。
これまでも、「参加者は高齢者がほとんどなので」とか「参加するまでの交通機関で感染するリスクがあるから」「区の公式行事と思われると困るから」などなどと、区の担当者から「活動自粛」を要請されて、(民間の自主活動だというのに)ウォーク行事を中止するという苦渋の決断を強いられてきたようなので、今度は「マスクをしながらのウォークは熱中症のリスクが高まるから止めてほしい」とでも言われたのではないかと邪推している。
まあ、それはさておき、ただでさえ暑熱下でのウォーキングは熱中症のリスクを持つので、本格的な夏日を迎えるこの季節に「マスク着用で歩く」ことで熱中症の危険が高まるのは当然で、“自殺行為”などと大業に吹聴するつもりはないけれど、「外に出るときはマスクをつけなければならない」と信じている方は、これからの季節には外を歩かないほうが良いと思う。
思えば、私も30年ほど運動生理学や運動疫学の業界(学界?)で仕事をしてきたが、「ウォークの危険性」は業界では常識といっても良い。
例えば、ウォーキング中の事故としては、熱中症以外にも、
転倒・捻挫・骨折、
肉刺・靴ずれ・擦過傷、
痙攣、膝痛・腰痛、
蚊に刺される(感染症)、
犬にかまれる、
交通事故(自転車・車・ランナー)、
などなどと枚挙にいとまがない。昨年は、公園での休憩中に転んで打撲・顔面裂傷を被った方もいらっしゃたし、これまでの5年間のウエルネスウォークの中でも、転倒や擦過傷を含めると数件の「ヒヤリ・ハット」を体験している。
だから、私たちは、調査や下見の際に、滑りやすい箇所や転びやすい箇所あるいは見通しの悪い交差点や狭い歩道を自転車が通行するような箇所をなるべく避けて、安全に歩ける道を選ぶようにしている。もちろん、夏のウォークは日陰を多くするような工夫も欠かさないのだ。それでも、事故は防げないし、100%安全だと胸を張ったりはしない。だから、「ウォークは危険」という考え方を私は否定しない。これらの危険を完全に避けるためには、「ステイホーム」は最も安心な活動だと思う。
それはさておき、これまで私は「ウォーキングは安心・安全です」などと述べたこともあるかもしれないので、皆さんの誤解を恐れて慌てて弁解しておくと、
「ウォーキングは危険な活動なので注意しましょう!」
と言っておきたい。
ただ、これまでに蓄積された科学的知見をすべて総攬するならば、「ステイホーム」よりは「ウォーキング」のほうが、長期的な健康被害をもたらすリスクが低いことも自明である。「ステイホーム」を信仰する方の中には、「室内で運動しているから大丈夫」と思っている方もいるのではないかと思うが、室内で(マシンを使わずに)行ういかなる《運動》よりも、「30分ほどのウォーク」のほうが多くのエネルギー消費を達成できる。
これまでは、「引きこもり」などという言葉で「高齢者の生活の質を低下させる」ということが喧伝されてきたのだが、「ステイホーム」と言い換えることであたかも「命を守る行動」であるかのように価値転換が試みられているような雰囲気がある。でも、そのうち(5年ほどしたら)「ステイホームによる健康被害」を科学的に検証する研究成果が発表されることだろう。
「ウォーキングが危険な活動」であることは否定しないし、「ウイルスに感染しない」という一点だけに限れば「ステイホーム」に一利あるといっても、長期的な健康被害という観点からの「ステイホーム」のリスクが周知されていないのは不思議なことだ。
小林さんからのメールは、
「歩く機会を提供したいのです。10名を超えたらグループ分けを検討したいと思います。」
と結ばれていた。
私たちのウォークでも、これまでの安全管理の留意に加えて、暑い日には「マスクを着用してのウォークは危険ですから十分に注意してください」と注意喚起しようかとも思う。でも、それよりも、参加者がマスクをしなくても安心して歩けるような工夫も大切だと、自戒した。
Wasedaウェルネスネットワーク会長・中村好男