WWNウエルネス通信190113:針治療の効果

今年の大学院生の中に、とある企業の社員向けクリニックに勤めている鍼灸師がいる。彼の研究テーマは「職場での針治療の効果」。社員向けの福利厚生施設なので受診料が格安で勤務時間内に職場で受けられるということもあって、予約はほぼ埋まっているという。2年ほど前から、治療前後に“痛み”の程度を記録してもらっており、そのデータを基に「効果」を現したいというのが研究の目的だった。

全部で200人ほどのデータなのだが、中には1年以上も通っている人もいる。その方々の“痛み”の程度を、「0:全く痛みを感じない」から「100:これ以上耐え切れない痛み」の100段階の数値で表して、治療前後での痛みの改善率を測ろうとしたのがそもそもの動機であった。確かに、ほぼ全ての人が針治療によって痛みがかなり緩和改善しており、「針治療を受けると痛みが取れる」のだということが分かる。「痛みの部位・程度・受診頻度などによる改善率の違い」を検証しようと、昨年春から毎週のように分析結果を発表してきたのだが、どうも良く分からない。あるとき私が、「(毎回痛みが改善するのに)治療を受け続ける人がいるのはなぜか?」という疑問を投げかけて、来院回数を横軸にして(治療後の改善ではなくて)治療前の痛みの程度を表すグラフを作って欲しいと要請した。すると、受診回数を重ねることによって“痛み”が少なくなっているという傾向は表せずに、中には、初診では“軽度(0~30)”に分類されていたのに、治療回数を重ねるごとに“重度(70以上)”へと悪化する患者もいる。初診から直近の最終診まで、“改善”した方よりも“悪化”している方のほうが多いような傾向が(私には)見てとれた。

「針治療を受けても痛みは良くならないのではないのか?」

と問い質すと、(たぶんショックの余り)次週のゼミを休んだ。それは夏休み前のことだったのだが、秋になって、彼自身もその結果(考え方)を受け入れてくれたようで、今では「急性(即効)効果」と「長期効果」とに区分して、先ごろ修士論文を提出した。

 「治った方はリピートしない(改善しない人が継続受診している)のでは?」

というのが私の見立てなのだが、このことについては、まだ検証できていない。そもそも、「職場」という福利厚生施設での“針治療”の特徴を明らかにしようとしているのか、(そこで針治療に当たっているのは彼だけなので)彼自身の鍼灸師としての技量を推し量っているのかも判然とはしない。

「彼が治療しているから長期効果が無い(彼の腕が悪い)」

という仮説の方が彼にとってはショックだろうと思うのだが、それはまだ、私からは口には出していない。

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