あれはまだ民主党政権(仙石官房長官)の時代だったから、今から10年ほど前のことと思うが、縁あって上昌弘先生(東京大学医科学研究所教授)と知りあい、同氏が理事を務める「医療ガバナンス学会(MRIC)」のメールマガジンを受信するようになった。「学会」といっても、基本的には現在の医療や医療制度に対して様々な見解を持っている方々が、各々の見解や論評を投稿する形式の学会であり、それらは学会ホームページに掲載されるとともに同時にメルマガとして配信される仕組みである。
それはさておき、昨日のメルマガに表記テーマの論評が掲載された。
「今回の記事は転送歓迎」とのことなので、内容の一部を皆様に紹介させていただきます。
(本文は→http://medg.jp/mt/?p=8797)
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おばあちゃんは、悲しい顔をして僕に言った。
「この足ね、治らへんっていわれたんやけど、どないやろ。」
「え?どうしたん?」
「あのな、友達とお風呂にいってん。そのときな、『あんたの足、どないしたん?それ、外反拇趾っていうんやで。まあ、ひどいわあ。はよ整形外科行き!』って言われてん。私な、そんなもんかなと思って整形外科いったんやん。そしたらな。『これは酷い。…手術してもええけど。どこまで治るかわからへんで。』そう言われたんや。それからな、私な、不治の病やって落ち込んでな。」…(後略)
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それを聴いた「私(おそらく著者)」は、足を見て
「あのな。おかあさん。歩くの、今、困ってへんやろ?痛くなかったらこの足、ちょうどええんやで。」
と安心させたとのこと。
そのできごとを踏まえて、著者(中田英之医師)は、
「さて、治療とは、一体どういうことを意味するのか」
と熟考する。このおばあちゃんの足には、外反拇趾という病名がついていて平均的な形態をしていないが、「機能」に支障はない。そこから、
「今、見かけ、形を人と同じにすることを強要する社会的風潮のなか、少し、立ち止まって『何のために?』と考えてみてもよかろう。」
と帰結し、さらに、
「認知症の領域においても同じ問題があるように思われる。」
と結ぶ。
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この記事を読んで、先に(9月9日&16日)ウエルネス通信で配信した「私の外反母趾」のケースを思い出した。
そこでは「激痛」という症状があったので本件とは趣は異なるが、“医者”あるいは“医療”に対する社会的要請は、まさに「病名をつける」というところに存在し、「治す」ことに主眼が置かれないこともある。ことに、「人工関節置換術」のように「外形的不正を外科的に整える」という医療操作においては、「痛み」すら無視されることがある。
これは、“医師”や“医療”の怠慢や不正なのでは決してない。
同学会は「医療」のガバナンスを標榜するが、じつのところ「社会的風潮のガバナンス」を主眼としているような気がした。